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リスクマネジメント国際規格ISO31000フレーム活用による外見リスクマネジメント推進

2016年10月29日開催 第22回 日本広報学会 全国研究発表大会予稿原稿

HP2016外見リスクマネジメント口頭発表予稿(石川慶子)

リスクマネジメント国際規格ISO31000フレーム活用による

外見リスクマネジメント推進の可能性

――外見リスクマネジメント研究会中間報告――

シン 石川 慶子

 

1.外見リスクマネジメントの研究目的

本研究会は非言語コミュニケーションの中でも特に外見に焦点を当てる。「見られたい自分に見られない外見リスク」という領域が成り立ちうるのか研究を進める。過去の関連文献を参考にするだけでなく、スタイリストやウォーキングインストラクター、体づくりトレーナーといった外見変革の専門家、メディアトレーニングのトレーナーからは現場で実践している内容の提供を受ける。さらに研究者からは理論化、研究手法の提供を受け、参加メンバーは自らが実践し検証していくことを目指す。

今後、女性のエグゼクティブが増加すると男性以上に非言語コミュニケーション力が、メディアトレーニングでは求められると予測できる。広報プロフェッショナルとしてメディアトレーニングの非言語領域の実務的研究を深め、業界にも寄与したい。

本研究会では次の4項目を達成することを目標とする。

  1. 外見リスクマネジメントを定義する
  2. 外見リスクマネジメントの必要性を論理的に説明する
  3. 外見リスクマネジメントの具体的手法を確立する
  4. 外見リスクマネジメントが有効であることを立証する

 

2.リスクマネジメント国際規格ISO31000フレーム活用

外見リスクマネジメントとは、「自分がこう見られたいと思っている姿と実際に相手に与えている印象が一致していない状況をリスクととらえ、そのギャップを埋めること」(石川慶子、2015年3月)と提唱されたが、本研究会では内容を深める。似た概念として「印象管理」といった言葉があるが、「印象」では範囲が広すぎると考え、外見に絞ることとした。外見リスクマネジメントの定義と具体的手法については、リスクマネジメントの国際的ガイドラインISO31000(2009年11月15日発行)を参考にしながら進めることとした。

リスクの定義は、多様な定義が存在するが、リスクの語源説を採用する。イタリア語源説は「riscare」であり、「勇気をもって試みる」という意味である。「運命ではなく自ら選択できる」と受け止めると前向きに取り組めるのではないだろうか。ISO31000においては、リスクとは「目的に対する不確かさの影響」とされており、目的は主体者が定めるとされている。外見リスクに絞る場合、まずは「外見」を定義した上で、目的を定める必要があるだろう。

私が着目しているのは、ISO31000の適用範囲について「あらゆる公共、民間もしくは共同体の事業体、団体、グループ又は個人が使用できる」とされ、リスク運用管理のプロセスへのインプットは、「過去のデータ、経験、ステークホルダーからのフィードバック、観察所見、予測、専門家の判断などの情報源に基づくものである」「ステークホルダーからの見解に配慮される」とされている点である。すなわち、組織だけでなく個人でもリスクマネジメントを実践することが期待され、外見についても専門家の意見を反映させること、ステークホルダーからの見え方にも配慮し、期待に応えることが大切であると理解でき、外見リスクマネジメントにも適用できると考えた。

企業は売上が上がれば上がるほど期待の高まりとリスクは増大する。同様に人は社内外での地位が上がれば上がるほど周囲からの期待は高まり、その期待に応えていない外見は信頼を失墜すると考えることができる。外見は個人的に対処すべき課題として議論されがちだが、個人の判断にゆだねることで評判を落とす事例は数多くあり、それについては別途まとめる計画である。また、メディアトレーニングが広報予算の中で実施されていることを考えると、「個人」「ステークホルダーからの期待」のキーワードに通じる外見リスクマネジメントも広報予算の中で実施するべきと結論づけることができれば日本も国際レベルの表現力を手に入れることが可能になるのではないだろうか。

リスクマネジメントのプロセスについて、ISO31000では、「コミュニケーション、協議及び、組織の状況の確定の活動、並びにリスクの特定、分析、評価、対応、モニタリング及びレビューの活動」が明記されている。このプロセスそのものはISO31000が発行される以前から、各現場で実践されていたことではあるが、広報専門家として着目したのは「コミュニケーション」「協議」「モニタリング」「レビュー」の4つのキーワードだ。従来リスクマネジメントは、組織内におけるリスクマネジメント担当者がリスクの洗い出しをして対応策を立てることが一般的であったが、コミュニケーションの重要性が記載されたことで、今後はコミュニケーションの専門家である広報担当者がリスクマネジメントプロセスに深く関与していくことが期待されるのではないだろうか。(図1)

このプロセスを外見リスクマネジメントに適用してみよう。「組織の状況の確定」は、「自分自身の今の姿に向き合う。実際どう見られているのか。客観的な視点を持つこと」。「リスクの特定」「分析」「評価」「対応」は、「外見における課題と魅力はどこか洗い出すこと。一番の課題はどこか。髪型なのか、服装なのか、姿勢なのか。対策の優先順位をどうするか。取り組みやすいのは何か。時間的制限はあるか。どこに間に合わせればよいのか。予算はどこまでかけることができるか。すぐにできる清潔感を演出する手法はなにか?自分でできることは何か。専門家の支援はどこから必要か」となる。「モニタリング&レビュー」「コミュニケーションおよび協議」は、「取り組んだ結果、周囲に清潔感を与えることになったか、評判を高めたか」。意見を聞きながら調整を重ねて「自分らしい」外見の演出を身につけていくことと当てはめることができる。

最後にリスクマネジメントを効果的にものにするためには、「リスクマネジメントは価値を創造し、保護する。リスクマネジメントは安全性、保安、法律および規則の順守、社会的受容、環境保護、製品品質、統治、世評などの、目的の明確な達成及びパフォーマンスの改善に寄与する」ことが望ましいとされた。これは画期的な提唱である。リスクマネジメントはコストとして認識されがちだが、「投資」としてとらえよ、というメッセージである。外見リスクマネジメントも同様に、外見を意識することは、その人が持っている価値を守り、創造することにつながるといえるのではないだろうか。

 

図1 ISO31000におけるリスクマネジメントのプロセス(略)

3.外見リスクマネジメント有効性の実証について

「外見」について、これまで「距離」や「匂い」の重要性が討議されたが、現時点においては、見てわかる「ヘアとメイク」「表情」「姿勢」「服装」「動き・歩き」「体形」の6項目とし、詳細項目は精査していくこととした。

外見リスクマネジメント有効性の実証には、数値化を検討している。「外見は重要だと感じる」といった共通の意見がある一方で、「仕事に役立つと実証してほしい」「ビフォー、アフターの写真を見てもわからない。数字で見せてくれないか」といった意見もあったからだ。見た目の変化を果たして数字にすることはできるのだろうかと頭を悩ませたが、取り組み「前」と「後」の「実感」を本人が評価することで数値化することは可能ではないか、仕事やライフスタイルへの影響をスコア化できるのではないかと考えた。知識や専門家からのアドバイスで表情、ヘアメイク、姿勢、体形、服装、動き・歩きが変わるのか。影響を与えたのか何か、なかなか行動できなかったのはなぜか、何がきっかけになったのか。行動し外見変化した結果はどうだったのか、仕事への取組み意欲や責任ある仕事へのチャレンジは変化したか、人前に出る自信、メディアに出る自信ができたか、売上を向上させたか。さらに、服を選ぶ時間が減り効率的な時間が使えるようになるなどライフスタイルへの変化にまで影響を与えたか、等の調査項目を詰めていく。調査方法はリスクの想定でよく使われるデルファイ法などを検討する。デルファイ法は、対象のテーマについて回答とフィードバックを繰り返していくことで集約していく方法である。

私が個人的に感じている今後の課題は、「行動変容」である。これまでの経験から「人はなかなか行動しない」現実を目の当たりにしているからだ。知識が増えたり、数字で立証したところで、きっかけがなければ行動にはつながらない。これまで外見リスクマネジメントの行動につながったいくつかの成功例から考えると、「きっかけ」だけでなく、「コミュニケーションの量」も関係しているのではないかと予測している。広報の観点でいえば、取材や記者会見、動画撮影といったきっかけの環境は比較的作りやすい。場を作り出すことが具体的な行動につなげていけるのではないだろうか。行動変容については手探りではあるが先行事例も調査しながら研究を進めていきたい。また、下調査として数名の女性記者へヒヤリングした結果、ユニークな視点も得られたことから、女性記者へ経営者の外見印象アンケート実施も検討したいと考えている。

図2.外見リスクマネジメントの数値化(図略)

参考文献

犬吠郁夫 『しぐさのコミュニケーション』サイエンス社,1998

『ISO31000:2009リスクマネジメント解説と適用ガイド』リスクマネジメント規格活用検討会,2010

S・B・カイザー『被服と身体装飾の社会心理学』北大路書房,1994

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