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アクティブラーニング、マイクロラーニングを取り入れた外見リスクマネジメント学習プログラム

2018年10月27日開催 日本広報学会 全国研究発表大会 予稿原稿

2018外見リスクマネジメント口頭発表(石川慶子)

アクティブラーニング、マイクロラーニングを取り入れた外見リスクマネジメント学習プログラム

広報コンサルタント/シン 石川 慶子

要旨: 外見リスクマネジメント研究会(2016年4月~2018年3月)は、1. 定義する、2. 必要性を説明する、3. 具体的手法、4. 有効性の立証を目的に掲げ、先行研究調査、フレーム研究、体験会、アンケート、理論の組み立て、コンテンツ作成を行ってきた。先行研究調査結果の補足をした上で、教えることが最大の学びであるとする「アクティブラーニング」を軸にし、実務家が活用できることを最終目標とした結果、構築できた外見リスクマネジメント学習プログラムを今回発表することで研究会の最終報告とする。

 

1.外見研究の歴史的変遷

外見リスクマネジメント研究会の目的は、1. 定義する、2. 必要性を説明する、3. 具体的手法、4. 有効性の立証、であった。2016年は1と4について発表(「リスクマネジメント国際規格ISO31000フレーム活用による外見リスクマネジメント推進の可能性」)、2017年は2と3について発表した(「印象管理に関する先行研究考察、ならびに外見リスクマネジメント具体的手法の試行」)。今回は、先行研究補足とアンケート結果、学習プログラムを発表する。

まず、外見研究の歴史的変遷について解説する。外見についての研究が進まなかった理由について興味深い文献が見つかった。外見については1921年から研究されてきた。当初は「なぜ個人の身体的特徴が周囲の人に影響するのか(Perrin)」を研究しようとする試みであった。1940年、50年代は、外見と自己認知に関する研究が出てきたが、外見が影響を持つことを認めることへの嫌悪感もあった(Berscheid)ために、社会行動科学の研究者たちは目の前にある現象を無視してきた(Cash and Pruzinsky)。1960年代になって形成外科手術や歯科矯正治療ができるようになってきたこと、1980年代になると陪審員へのよい印象形成のニーズから、外見が果たす役割に関心が高まった(Bull and Rumsey)。また、人間の移動が広範囲になることで初対面の人達と出会う機会が多くなり印象形成研究が高まりを見せた。一方、外見への不安が摂食障害をもたらすようになり、ヘルスケアの観点から関心を持たれるようになってきた。

これまでの研究変遷をみると、外見は変えられない美醜として定義されているため、研究が進まなかったようだ。私が定義する外見は、形としての美醜ではない。自分が見られたいイメージと実際に与えているイメージとのギャップをリスクとして認識し、そのギャップを埋めるマネジメントとして変革が可能であることを証明してきた。したがって、先行研究の延長線上にあるものではないことを明言しておく。

 

2.外見不安とメディアとの関係

外見研究においては嫌悪感、タブー視から研究への躊躇があったが、いざ始めてみると意外なことに外見に多様な疾患がある人達は調査に協力的で熱心であったという。英国では1500名も参加した。研究の結果、外見不安は増加傾向にあり、米国では、1972年と1985年で女性は23%から56%、男性は15%から23%に上昇(Psychology Today Body Image Survey 1997)。外見に不安がないと回答した女性は7%(Cash 1986)。英国男性では、身体に対する不満足は1980年と1998年で16%から25%、2004年食事制限している男性は32%、米国男性の75%が自分の体形に不満足と回答(2004年『メンズ・ヘルス』)。毛髪を失った60%の男性がネガティブな社会的影響、情緒的影響を訴えている。(Cash 1992)。

このように外見に不安を持つ人の増加の一因としてメディアの影響がある。メディアがスマートなモデルを使うと外見不安は増加し、平均的なモデルを使うと不安が減少する(Halliwell and Dittmar 2004)。メディアが作り出すイメージに左右され、自分がそのイメージから遠いと不安になり、近いと安心できるというわけだ。メディアの影響が大きくなることで外見不安は増幅されていくことになるといえそうだ。

これらの外見研究は、外見不安という心理学的アプローチである点が興味深い。マスメディアではなくソーシャルメディアが発展し、個人発信が増える時代に突入していることから、今後は違う傾向が出てくる可能性がある。

 

3.外見のソーシャルスキル必要性

外見に関連した苦悩は情緒的、行動的、認知的にも姿を現しているという報告もある。英国で2100名の調査を行った結果、女性の61%、男性の35%が外見に不安を持ち、女性は「バスト」「胴回り」、男性は「毛髪を失っていること」がトップ。女性の25%、男性の19%が重大な心理的苦悩と行動障害の徴候、自分には身体的魅力がなく、愛される存在ではなく、それゆえに親密な人間関係構築が困難であると思い込む感情=孤立感を持つと回答していた(Harris and Carr)。不安を持っていない人は、前向きな社会適応や幸福感を伴っているという。外見に不安を持たないことは社会生活を送る上で重要であることを立証している。

ソーシャルスキルの有効性については、顔の傷あるなしで実験されており、メイクなどのソーシャルスキルで好印象が実現できるとしている。また、家族環境において外見的差異だけでなく、あらゆる問題に対してオープンに話し合うことができる環境にあるかどうかが社会適応に影響するとしている(Hearst and Middleton1997)。これはリスクマネジメントの観点から興味深い。リスクマネジメント体制構築には、話しにくいことについてもオープンに話し合える環境作りが大きなクライシスを防ぐことになるとされているからである。不安解消には、具体的なスキルとオープンなコミュニケーションが重要であると提唱している私の信念にも合致する。

 

4.外見リスクマネジメント学習プログラム

外見の自己管理について、認知行動(療法)的原則に基づく8段階のプログラムがあることがわかった。私が2016年に提唱したリスクマネジメント国際規格ISO31000に準拠したプログラムと比較したところ、8ステップとしている点、自分に向き合い、課題を明確にして取り組む、記録する点など共通点が見いだせた。外見リスクマネジメントの必要性、進め方に間違いがないと確信した。

ISO31000に基づいた外見リスクマネジメント 身体イメージ自己学習
①     取引先の評価基準観察・分析(ステークホルダーの把握)

②     自分の姿を客観的に見る(状況確認)

③     自分の強みと弱みを洗い出す(リスク特定)

④     リスクが大きい表現力の課題を発見する(リスク分析)

⑤     見られたいイメージとギャップ確認(リスク評価)

⑥     優先順位を決めて実行する(リスク対応)

表情、服装、歩き方、髪型等のギャップを埋めるプログラム

⑦     周囲に聞いて成果を確認する(モニタリング&レビュー)

⑧     撮影する(記録する)

①    身体イメージへの影響に関する自己評価

②    身体イメージに関する経験の記録

③    リラクゼーション訓練と脱感作(脱感受性)

④    外見に対する思い込みを明らかにして課題として取り組む

⑤    認知構造の再構築

⑥    不良適応を適応能力の高い行動と対処方略に置き換える

⑦    前向きで楽しい寝台との経験や関係についてそれらを増やすエクセサイズを発展させる

⑧    変化していくことを維持し続け、崩壊を未然に防ぐ

 

具体的な学習ニーズ把握のため、アンケートを実施。9つの選択肢を用意した。結果は、図1,2の通り。結果は男女共に表情がトップであった。2015年の時点では外見を5つの要素(表情、服装、ヘアメイク、姿勢や立ち方、歩き方やしぐさ)と定義したが、学習プログラムでは、声とニオイマネジメントを入れることにした。声に課題を感じる人が多かったこと、表情と声は一対であると専門家から助言されたことからである。ニオイについては、研究会メンバーで頻繁に討議されたこと、スメルハラスメントが労務トラブルとして浮上してきていること、健康経営の一環でニオイが重視されつつあることからニーズが拡大すると予想したからである。

 

図1.女性回答者の結果 図2.男性回答者の結果

(図略)

学習プログラムトップページ構成は、画像で内容が感覚的にわかるようにした(図3)。少量多頻度学習マイクロラーニングのツールを活用した。3分動画に対して1問試験を用意する、テキストによる補足説明、自己演習用のフォーマットダウンロード、アンケートなどを組み合わせた(図4)。さらに、教えることが最大の学びであるとするアクティブラーニングの考え方を採用し、講師コースを用意し、自己の外見変革をテキストにしてマイクロラーニング化して自ら先生となり、広めるためのスキルを学べる内容とした。

 

図3.学習プログラムトップページ 図4.外見リスクマネジメント基礎講座コース

(図略)

今後の課題は、学習コースコンテンツ作成を完成させること。さらに、実際の運用と成果のデータ収集と改善、広げるための仕組みづくりである。

 

参考文献

ニコラ・ラムゼイ、ダイアナ・ハーコート『アピアランス<外見>の心理学』福村出版,2017

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