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病院の危機管理広報①初動3原則

CBニュース掲載 2015年3月執筆

「SNS時代の“病院の危機管理広報”」

1回目 医療事故やトラブル発生! どう対応する?~初動3原則~

 

広報コンサルタント/日本リスクマネジャー&コンサルタント協会理事 石川慶子

タイトルを見て驚いている方が多いのではないでしょうか。「広報は広く知らしめることだろう。自分たちに不利な危機的状況をわざわざ知らせる必要はないだろう」といった声が聞こえてくるようです。そのような方にこそぜひ読んでいただきたいと思います。本連載を読み終えた時には、「広報」という言葉に、これまでにない新しい価値が見えてくるでしょう。

 

組織存続のために説明責任を果たす

「危機管理広報」とは、組織にダメージを与える事態が発生した際に、そのダメージを最小限に抑えるための広報・コミュニケーション活動のことで、「クライシス・コミュニケーション」とも呼ばれています。広報業界においては、100年以上の歴史があり、専門性の高い領域として認識されています。

組織における「広報」とは、「Public Relations(パブリック・リレーションズ、略称:PR)」を翻訳したものになります。社会と良好な関係作ることで組織の存続を目指す活動で、危機管理広報においても軸は同じです。

近代PRの父といわれているアイビー・リーという人が米国初のPRコンサルタント会社を設立(1904年)して最初に評判を高めたのは、このクライシス・コミュニケーションでした。彼のクライアントだった鉄道会社で事故が起こった際に、会社は従来の慣例に従ってこの事故を隠蔽しようとしたのですが、リーはそれをやめさせて新聞記者を現場に連れて行き、状況を説明し、取材をさせることで、鉄道会社の評判を上げたのです。以来、クライシス・コミュニケーションの基本は隠蔽せずに説明責任を果たす活動として確立してきました。

福島原発事故の報告をまとめた政府事故調(2012年7月23日発表)でも、「広報の問題とリスクコミュニケーション」の項目の中で「広報の仕方によっては、国民にいたずらに不安をあたえかねないこともあることから、非常時・緊急時において広報担当の官房長官に適切な助言をすることのできるクライシス・コミュニケーションの専門家を配置するなどの検討が必要である」と提言されています。つまり、国家中枢部に専門家が配置されていなかったということです。この報告書を読んだ際に、私は愕然としてしまいました。

 

初動三原則は、SPP

医療現場も同じだと思いますが、緊急事態発生時に多くのことはできません。クライシス・コミュニケーションにおいても、数多くのスキルや注意事項はたくさんありますが、私は初動三原則として、SPPの3つを実行することをお勧めしています。SPPとは、S=Stakeholder(ステークホルダー)、P=Policy(方針)、P=Position Paper(ポジションペーパー)です。

Sのステークホルダーとは、対策本部を中心に、マスコミを含めたすべての関係者を洗い出し、優先順位を決めます。なぜかというと、警察や消防が動けばすぐにマスコミが動くことが予測できますし、マスコミ対応をしているとマスコミよりも優先順位の高い被害者や内部関係者への連絡が漏れてしまう恐れがあるためです。ありがちなのが、遺族に直接お悔やみを述べる前にマスコミ発表してしまう、遺族に話していないことを先に電話をかけてきた記者に話してしまう、といったことです。誰の気持ちを一番大切にして寄り添っていかなければならないのかを明確にするための初動です。

P(=Policy)の方針とは、基本的な広報方針を立てることです。いつどのような形で説明責任を果たすか。記者会見を開くのか、開かないのか。個別対応とするのか。ウェブサイトでのコメントのみとするのか。記者会見開く場合にはいつ開くのか、何回開くのか、誰が説明するのか、どのような報道で収束させるのか。警察の捜査が入っている場合には、ほぼ同時にマスコミも知ることになるため、対策会議で情報収集する前に、マスコミからの問い合わせがあったら、どうするのか方針を決める必要があります。1回目の対策会議を開く前にネットで広がることもあります。今は隠すことができない時代です。公表することを前提に、どう公表するかの方針を立てる必要があるのです。

2つ目のP、ポジションペーパーは、起こっている内容を客観的視点で説明し、どう取り組んでいるのか姿勢や見解を示す文書で、「公式見解書」の位置づけになります。ウェブサイトへの掲載、報道関係者やその他の関係者にも配布します。説明責任を果たすための最重要文章になりますので、プロフェッショナルな表現力が求められます。

このようにクライシス・コミュニケーションは、手法がぎっしりと詰め込まれている専門領域です。発表文書や記者会見を見れば、プロが入っているかどうか一目瞭然です。次回は過去の事例を分析しながら、失敗パターン、成功のためのポイントを詳しく解説していきます。

 

 

 

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