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スタイリスト高野いせこ × 広報コンサルタント石川慶子対談

女性管理職・女性リーダーにふさわしいファッションとは

高野いせこ氏

高野いせこ氏

「メディアトレーニング」は、カメラを通して自分を客観的に見る訓練です。これまでは、男性管理職へのトレーニングが中心でしたが、今後は女性管理職・女性リーダーに対してもニーズが高まると予想しています。広報3つの目標、①わかりやすく説明することで「理解していただく」こと、②失言を回避して「信頼を構築する」こと、③その場にふさわしい清潔感ある服装で「好感をもたれる」ことは、男女区別なく同じですが、見え方については、男性とは大きく異なります。特に女性管理職となると、リーダーとしての凛々しさと同時にエレガントな美しさも兼ね備  えた豊かな魅力を表現したいもの。そこで今回は、女性管理職・女性リーダーならではのファッションについて、スタイリスト高野いせこさんと語り合います。
 

注目を浴びる女性の記者会見、外見リスクをマネジメントすべき

石川:新聞記事の写真を見ると、記者達が受けた印象がよくわかります。たとえば、昨年は、小渕氏と松島氏の女性閣僚が同時期に辞任した記事がありました。(2014年10月20日日経新聞夕刊)松島氏は白のスーツに笑顔で下からのカット。小渕氏は、紺のスーツに会見で頭を下げている写真が採用されました。好感度は圧倒的に小渕氏が高いといえます。わざと正反対の写真を使用しているようにも感じました。記者が受けた印象がそのまま報道写真に出てしまったのでしょう。それがメディアの怖さ。謝罪や責任あるコメントを出せるかどうか、に加え、服装で自分の姿勢を見せることも重要なのですよね。クライシス発生時にはダメージを最小限に留めるための行動を起こすことが基本であり、中でも記者からの印象を悪くしないようにするために全力を尽くすこと。そこのダメージコントロールをするのが私たち広報コンサルタントの仕事です。
 
高野:女性は男性ほど、制約がないので自由度が高いといえますが、女性だから何色を着てもいいとは言えません。国会議員の方で緑色や黄色、オレンジのスーツをテーマカラーとして着る方がいらっしゃいますが、勝負するところが違います。色で目立ったり、差別化を考えるのではなく、別のところで勝負をかけたほうがいいと思います。また、女性の場合は、メイクやアクセサリーの使い方も成功するためのポイント要素となります。さまざまなアレンジができる分、どうアレンジするかのコーディネイト力が問われるでしょう。40~50代の女性管理職の方々は、仕事で成功してきていますから十分中身があります。そこで外見も中身に合わせて魅力のあるファッションで、中身も外見も同質のレベルでさらに磨きをかけてほしいと思います。
 
石川:テレビの視聴者は女性には厳しい。注目を浴びる記者会見が勃発すると、コメント依頼がメディアから私のところに来ます。記者会見の運び方から見える背後に予想できる戦略性のありなし、コメント内容の分析までは組織的視点なので同じですが、スポークスパーソン分析もあります。ここでは男性経営者の時には求められない「服装やメイクは謝罪会見にふさわしいのでしょうか」と質問されるのが大きな特徴です。不祥事記者会見分析が多いので、「紺のスーツやワンピースなら好感度が高い」「アクセサリーが光りすぎ」「髪の毛は作りすぎで違和感あり」といったコメントをしています。
 

引き算のファッションでクールビューティに

左:高野いせこ氏 右:石川慶子

左:高野いせこ氏 右:石川慶子

石川:最近は、40代の女性講師や女性営業職の方から、テレビに出るがどんな服を着たらいいのか、どこで購入したらいいのか、といった相談が増えてきました。女性管理職や女性リーダーの場合、服装表現で大切にしたいポイントは何でしょうか。
 
高野:女性管理職・女性リーダーの場合のキーワードは、「クールビューティ」です。クールでありながらもエレガントさを失わないこと。美しくエレガントに働く女性であること。どこにも手を抜いていないのに、決して相手を緊張させることのない余裕と品格がその人のセンスを光らせる。別の言い方をすると、ファッションとは、着飾ることではなく他人の視線をコーディネイトするホスピタリティを持つことなのです。20代、30代はキャリアアップのための努力が必要ですが、40代になったら、ご自身のクオリティは十分あるのですから、見た目も「本物」で勝負をすればいいと思います。人に媚びないファッションというのかな。女を全面にアピールせず、自然体で勝負ができるともいえます。
 
石川:あまりやりすぎないということですね。若い子を見ているとつい自分も若いつもりで同じようなファションを目指してしまします。私も普段着は娘と服を共有したりしているので、意識が同じになってしまいます(笑)。ビジネスでは違いますから、気を付けないといけませんね。具体的にはどうしたらいいですか。
 
高野:年齢を重ねるに従って、心がけたいのは、いいものをシンプルに着ること。アクセサリーのつけすぎを避けること。むしろマイナスをしていくのが成功のコツです。私は「引き算のファッション」という言い方をしています。
 
石川:おお、「引き算のファッション」ですか。インパクトある言葉ですね。色を使いすぎない、過剰な演出をしないということですね。何かコツはありますか。
 
高野:いろいろな色を入れすぎないこと。多色使いはコーディネイトのバランスを崩し、清潔感もなくなるからです。頭から靴までのトータルで3色を基本に考えるとうまく収まります。大柄も避けましょう。ワンピースだけだと華やかになりすぎるからジャケットを着るといった工夫も必要ですが、その場合には、ジャケットの丈の長さがポイントになります。大事なビジネスシーンでは、イヤリングは揺れるものを避けるという気遣いも必要です。なぜかというと、人は相手の目線が揺れるものにいってしまうためです。せっかくの話に集中してくれないのです。男性は揺れるものに弱いらしいから。
 
石川:なるほど、トータルで3色まで、というのは覚えやすいですね。先ほど、色で勝負ではなく、別の部分で勝負をした方がよいとのことでしたが、どこで勝負するものでしょうか。
 
高野:男性と同様、やはりライン(形)です。まず、自分の体のことを知るために、全身を鏡でチェックして、自分のライン(形)に合うものを見つけるとよいでしょう。さらに、定番を持つことです。たとえば、お気に入りのブランドやアイテムを見つけてそれを定番にするのもよいでしょう。
 

女性管理職・女性リーダーには専属スタイリストがつく時代に

石川:高野さんに同行ショッピングしていただいたことがありますが、私のサイズにぴったりのお店、ブランドを見つけてくださいましたね。あれには驚きでした。実はなかなか自分の好みに合ったブランドが見つからずに困っていたのです。特にスタートのサイズと形がいつも不満でした。高野さんおすすめのお店は、私の体のラインにぴったりで、デザインも私が好きな雰囲気でしたので感動してしまいました。靴も自分では絶対に選ばないモスグリーンの素敵な靴を勧めてくださいましたね。とにかくどんどんお店を回るし、迷わずに自信をもって購入できる点が心地よいです。お金も効率的に使えているという満足感を得ることができましたし、プロフェッショナルなサービスだと実感しました。ぜひ多くの女性たちにも味わっていただきたいと思います。これからは、タレントだけでなく女性管理職・女性リーダーにも専属スタイリストがつく時代になりそうな予感がします。
 
高野いせこ氏による石川慶子の服装アレンジ高野いせこ氏による石川慶子の服装アレンジ

高野いせこ氏による石川慶子の服装アレンジ
 
高野:気に入っていただいてよかった。事前アンケートで好みをお聞きしてイメージを作ってあったからですよ。石川さんの場合は、もともとスタイルも顔もよくシャープなイメージなのですが、そのよさを活かしたコーディネイト力が課題でした。多くの方がそうなのですが、自分の良さをわかっていないのでファッションがバラバラなのです。シャープさがあるため、服ではエレガントさとグレード感を出すことに注力し、スタンダードなスーツではなく、デザイン性のあるスーツを選びました。スカートの丈はひざこぞうが見えるか見えない位がちょうど足がきれいに見えます。
 
石川:確かにひざこぞうには年齢が出ますね(汗)。パンプスは、やはりきれいに見えます。ちょっと歩きにくいからパンプスは避けてしまうのですが、こんなに違うとなると我慢しないと(笑)。考えてみると全身を撮影する機会ってないので、こうして違いが歴然と見えると「絶対パンプス」と決意できます。
 
高野:服選びのコツについて加えておきたいのは、自分で自信がもてる部分を知って、そこをうまく見せること。自分が好きな部分というよりは、人からよく褒められる部分です。たとえば、「足が長い」「足がきれい」「肌がきれい」といったことです。そこが自分の個性になるので、その部分をよりよく見せていく工夫をすると差別化につながります。
 

鎧を取り、まな板に乗る覚悟をもって

石川:さきほど、女性管理職・女性リーダーのキーワードは、「クールビューティー」でクールでありながらもエレガントさを失わないこと、とのことでした。高野さんがおっしゃるエレガントさとはどのようなものでしょうか。
 
高野:男性に比べて女性の体形は柔らかいですよね。その柔らかさをどう見せるか、ということ。やはりライン(形)の見せ方が第一にあります。それに加えてコーディネイト力。ワンピース、メイク、アクセサリーなど男性よりもアレンジできる幅が広いので、様々な見せ方ができます。それをどう組み合わせて演出していくか。
 
石川:女性リーダーで私たちが参考になるロールモデルはありますか。
 
高野:ちょっと古いのですが、イギリスのサッチャー元首相。男勝りで鉄の女と言われていましたが、彼女は必ずパールのネックレスを着けて女らしさを忘れない演出を心がけていました。まさにクールビューティの代表と言えますね。
 
石川:確かにサッチャーさんはかっこよさと女性らしさのある首相でした。憧れですよね。女性の場合は、男性と違って自分なりのこだわりがあると思いますが、どうしたら変身できますか。
 
高野:鎧を取って、まな板に乗る覚悟は必要ですよ。自分はこうでなくちゃいけない、といった思い込みを一度捨ててください。
 
石川:はい、まな板に乗ります。高野さんに、髪はショートがいいと言われてから、ずっとショートにしています。今日も高野さんに会う前に美容院に行ってきました。ただ、NGとわかりつつ寒い日はタイツです。ごめんなさい(笑)。
 

(2014年12月30日 執筆 石川慶子)

高野いせこ氏プロフィール
スタイリスト
 
北海道出身。ピアニストを夢見て音大を目指していたが、高校3年生の時に行くべき道が違うと考え、転身。フェリス女子学院大学を卒業し、CMスタイリストに師事した後に独立。タレントの関根勤氏(2010年、理想の上司ランキング1位)、故中村勘三郎氏の専属スタイリストの他、俳優、野球監督、音楽家などの衣装を担当。1998年頃から、一般企業に目を向け、エグゼクティブのための服装演出を手掛ける「ビジュアルアイデンティティ」を提唱。これまでに自動車メーカー、銀行、IT企業、研修会社等のトップ、エグゼクティブ、管理職に対し、服装についての講演やアドバイスを提供。2014年からは、女性管理職・女性リーダー向けの服装アドバイスにも力を入れる。
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