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地方公共団体 式辞・挨拶事例集 2011年2月(第一法規)掲載原稿(会見での例文は省略)
広報コンサルタント 石川慶子

組織や団体が記者達と信頼関係を構築する考え方と手法を広報用語で「メディアリレーションズ」と言います。「リレーションズ」という言葉に違和感を持つかもしれませんが、「マスコミに対応」といった受け身の発想ではなく「リレーションズ=関係づくり」と能動的な意識を持つことが取り組みの第一歩になります。そもそも組織における「広報」とは「パブリック・リレーションズ」が翻訳されたものです。さらに言えば、日本の自治体における広報課は、戦後、GHQが都道府県に「パブリック・リレーションズ・オフィス」を設置させたことから始まります。市民との信頼関係構築のためには、マスメディアによる報道が効率的かつ重要だ、したがって、記者達に丁寧に説明して理解と信頼を得る必要がある、とする考え方が、1820年代に米国で生まれ、その後メディアリレーションズは専門領域として発展してきました。このような歴史的背景を知った上で、情報発信のあり方を考えるべきです。相手が明確ではないぼんやりした「お知らせ」や「あいさつ」ではなく「関係作り」を意識した「メッセージ」の発信なのです。

メディアリレーションズの種類

メディアリレーションズのツールや手法としては、メディア・トレーニング、メディアリスト、プレスリリース、記者会見、記者懇談会、取材、メディアキャラバン、プレスツアー、メディアオーディットなど様々あります。自治体では定例記者会見をどこも実施していると思いますが、案件によって個別インタビューや現地取材などメリハリをつけて働きかけを行います。
 
さて、新しい首長が誕生したら、最初にすべきことは、首長へのメディア・トレーニングとプレスキットのリニューアルです。

メディア・トレーニングは必須

「メディア・トレーニング」とは、マスコミや世論の現状を把握し、記者会見やインタビューに対してスムースに対応できる能力を育成する訓練です。このトレーニングを通して、マスコミを前にした失言、誤解、的外れなメッセージなどを回避する手法を体で身につけます。自治体であれば、マスコミ対応をする首長、事業課長、広報課スタッフは必須になります。
 
メディア・トレーニングには三つの目的があります。

  1. 記者からの辛辣な質問や誘導尋問に慣れ、どんな質問にも的確に答えられるような能力を身に付ける

  2. 記者の背後にいる読者・視聴者・ステークホルダー(組織を取り巻く多様な人々)・世論に的確なメッセージを発信できるようにする

  3. 記者から理解され、さらに信頼・好感をもたれるようにする

 
記者は必ずしも的確な質問をしてきません。ごくあたりまえの基本的な質問や的外れな質問、結論の押し売り、仮定の質問、誘導尋問、敵対的な質問をしてくる場合もあります。気をつけなければならない最大のポイントは記者の背後にいる人たちをイメージすることです。記者個人とのコミュニケーションではなく、その背後にいる読者や視聴者とのコミュニケーションだからです。つまり、世論とのコミュニケーションを記者という資質を媒体としながら行わなければならないために、ある特別なテクニックが必要とされるのです。そのテクニックを学ぶことがメディア・トレーニングの一番大きな目的です。このトレーニングでスキルを身に付ければ、平時においてはイメージ向上の役目を果たし、緊急時においてはイメージ損失を最小限に押さえる役目を果たすことに貢献します。

プレスキットはコンパクトに

プレスキットは、取材対応用に常備しておくべき自治体概要(人口、歴史、施政方針)、首長プロフィールと写真(データ可)、最新のプレスリリースになります。これをひとまとめにしておき、記者会見や取材対応時にセットで渡します。この他、その時々に応じて宣伝したい素材や理解促進のための補足資料を追加してセットにしておきますが、ポイントは多すぎないことです。自治体に取材に行くと、山のようにパンフレットが用意されていることが多いのですが、記者には逆効果です。きれいに出来上がっている情報には価値を見出さないからです。記者は一般に出回っていない情報を手に入れたいのですから、いかにも一般に出回っていますよ、という見栄えの良い資料を用意するよりは、体裁が整っていなくても、「あなたのためだけに用意しました」という気持ちが伝わるような出来たてホヤホヤのそっけないものにこそ価値を見出します。

メディアリストは地元メディアを中心に幅広く

メディアリストとは、関係を構築したい媒体や記者、ジャーナリスト、ライター名と連絡先を記載してあるリストのことです。自治体には記者クラブがありますが、記者クラブは、新聞社、テレビ、通信社だけであり、雑誌や地域誌、ネット媒体、フリーランス記者は入ることができません。記者クラブの記者だけ相手にしていては、情報は広がっていきませんので、フリーペーパーなどさまざまな地域メディアを調べます。ネットについては、プレスリリースを原文のまま転載してくれるポータルサイトもあるため、ネットで広げたい場合には、配信会社を使います。メディアリストの作り方ですが、新聞、通信社、テレビ局は複数の部署宛になることが多い。実作業の手順は、メディアデータ、雑誌カタログ、マスコミ電話帳、PR手帳などを参考にリストアップした上で、直接編集部に電話し、担当者とファックス番号を聞きます。メディアリストの項目は、種別、媒体名、出版社名、部署、役職、担当者、FAX、TEL、メールアドレス、発行部数、発売日、発行形態(月刊、週刊、ネットはURLなど)を一覧表として作成します。メディアリストは、プレスリリース配信や個別コンタクトで使用する他、メディア戦略を練る際に活用できます。

プレスリリースは社会的視点を盛り込んで

プレスリリースは、報道関係者向けに文章をまとめたものです。自治体では「報道発表資料」と呼んでいますが、意味は同じです。A4用紙2枚程度の分量を目安とします。何十枚もある資料にしたり、パワーポイントで図や表にしてしまうと一斉配信ができません。情報が大量にある場合には、添付資料として分けた方が扱いやすいのです。
 
プレスリリースは、社会背景や重要性を盛り込んだところに特徴があります。記者に書いてもらうためには、社会的に重要であることを納得してもらわなければならないからです。チラシや手紙、お知らせ文ではありません。宣伝するような誇張した表現や尊敬語、謙譲語は避ける必要があります。また、原則として既に出回っている情報についてはプレスリリースとは言えません。初めて公表する情報でなければなりません。広告よりも早いタイミングで出さなければパブリシティとしての効果が出てきません。まとめると、プレスリリースに盛り込む内容は、「社会的に重要なこと、あるいは、皆が知りたいと思っていることでまだ出回っていない情報」となります。イベント告知であっても、いつどこで何を開催するか、だけでなく、なぜそのイベントを行うのか、社会的意味はどこにあるのか、経済効果はどうか、を記載する必要があります。
 
書き方ですが、「プレスリリース」もしくは「報道発表資料」「報道関係者各位」と記載し、誰向けの文章であるかを明確にします。日付は発表日。発信者名は、自治体名になりますが、担当部署名を併記してもよいでしょう。タイトルは、人目を引くようなインパクトのあるキャッチコピーを目指します。ネットで検索されやすいキーワードをもってくることも最近は重要ポイントになっています。最初に概要と社会的背景、次に詳細を記載し、最後に問い合わせ先を入れます。新聞記事からプレスリリースを書き起こしてみるとコツが身につくようになります。

記者会見も形式はさまざま

記者会見とは、複数の記者を同時に集めて発表や報告を行い、記者に質問の機会を与える場になります。定例的に行うものもあれば、自治体から記者会見をアナウンスすることもありますし、記者達からの要請で開くこともあります。企業など他の組織体と一緒にプロジェクト発表する場合には「共同記者会見」になりますし、博覧会などのイベントになれば「記者発表会」、新しい情報ではないが理解促進のために開くマニフェスト進捗報告や出張報告、事業説明などの場合には「記者説明会」、災害や事件、事故、職員の不祥事が起きた場合には、「緊急記者会見」となります。平時の記者会見については、事前準備を十分に行ってから開催しますので、大きな問題が発生することはあまりなく、ちょっとした失敗には記者達も寛大です。運営が難しいのは、準備が十分にできない緊急記者会見です。緊急記者会見については別の章で詳しく説明します。記者会見について最も大切なポイントは、会見を開く案件であるかどうか、開催するならいつのタイミングか、記者クラブの記者だけを対象とするのか、広く一般に公開した形で記者を呼ぶのか、といった点になります。その後の波及効果や収束などの目的を明確にした戦略を立てます。

記者懇談会では記者の考えを聞く

特定のテーマや情報に限定せずに自由に意見交換したい場合には記者懇談会を行います。多数の記者を集める記者発表と異なり、少人数でランチや軽食をしながら行い、フランクな雰囲気で対話を行います。記者会見では、記者からの質問にひたすら答えなければならないのですが、記者懇談会では記者が通常感じていることやあるテーマについての意見も聞くことができます。服装も場所によっては、スーツは避け、カジュアル服やノーネクタイで親近感を深める演出を心掛けるとよいでしょう。記者会見には来ない、デスクや編集長、論説委員などとセッティングするとメディアとの多面的な接点を作ることができます。

プレスツアーで深い理解と報道を期待

記者数名を施設などに案内し、現場体験してもらうことで、理解促進や記事を期待する活動です。認知された観光施設よりは、あまり知られていない場所や普段は入ることができない場所など裏側の世界をみせる企画です。代表的なものでは、工場見学や農業体験、船上体験、地元の老舗企業巡りなどです。大企業では単独での工場プレスツアーは実施していますが、中小企業はなかなか実施できないため、自治体が複数企業をまとめる形で実施すると効果的です。観光客誘致であれば、外国人記者クラブを活用する方法もあります。最近は発信力のあるブロガーを招待し、ネットでクチコミプロモーションすることも流行っています。

メディアキャラバンで編集部と関係構築

どうしても掲載したいと思っているメディアには、こちらから出向いていって、商品の説明やデモンストレーションを行います。通常、1日で複数のメディアを渡り歩くため、メディアキャラバンと呼ばれていますが、要するに編集部訪問です。出版社は東京に集中していますので、地方自治体の場合には、PR会社に依頼する場合もありますし、PR会社にアポイントだけ入れてもらって、同行するパターンもあります。編集部に行くメリットは、編集長に会えることです。編集長は普段はオフィスから出ませんので会う機会がなかなかありません。また、複数の編集スタッフや記者がいるため、一度で複数の方々と面識を持つことが出来ますし、好感度も上がります。ユニークな食べ物や意外な商品など持参すれば、そのまま次号で紹介されることもあれば、取材に結びつくことも多々あります。

インタビューはこちらから働きかける

インタビューは依頼されてするもの、と考えられていますが、こちらからメディアに対して打診することも可能です。常に受け身で申し込まれた場合のみ対応していると戦略的展開ができません。こちらから計画的に打診していく方がより一層重要です。自分達が発信したい情報とその話に興味をもってくれる媒体をマッチングさせて展開していきます。こうゆう内容で話をすることができるのだけれど、関心はありますか、と積極的に打診します。インタビュー申し込みが多い場合には、対応するメディアを絞り込むことも必要です。

メディアオーディットで自分達のイメージ調査を

メディアオーディットとは、複数の記者に自分達の組織がどう見えているのかを調査することです。用紙を配布するのではなく、10名~30名程度の記者にヒヤリングする調査です。記者達は多忙な人が多いので、手短かによい印象か悪い印象かを聞き、それぞれの理由を聞き出します。特に記者会見の後や不祥事の後に実施すると反省材料にもなり、次のメディア戦略を策定する際に役立ちます。

モニタリングとクリッピングで活動をチェック

どのような記事になるかを注視することをモニタリング、記事になったものを切り抜いて台紙に貼る事をクリッピングと言います。記事になったら、ただ単に喜ぶのではなく、自分達が意図した通りなのか、全く予想外なのか、記者は好意的に受け止めたのかそうでないのかを読み取ります。記事に誤報やミスリードがあれば、すぐ記者に申し入れをします。クリッピングした記事は、広告換算して自分達の活動指標にすることもできますし、広告効果との比較分析で活用することもあります。モニタリングとクリッピングは専門会社がありますので、そこに依頼することも可能です。

メッセージディベロップメント

自治体職員の方々にとって最もハードルが高いのがこの「メッセージディベロップメント」かもしれません。メッセージとは、「思い」です。「決まったこと」ではなく、将来に向けての展望や熱い思い、予測や願いといったものです。時には、悔しい思い、後悔や反省の思い、悲しみといったものもあるでしょう。記者達も必ず「思い」を聞いてきますので、記者会見やインタビューでは必ずメッセージを事前に考えておく必要があります。メッセージがない会見やインタビューには物足りなさが残り、当然、好感度も下がります。「決まってないことは言えない」「事実しか言えない」「データの説明しかできない」といった後ろ向きのコメントではなく、「私はこう思う」「こうありたい」「こうであってほしい」「このように期待する」と主語を明確にして、前向きのコメントが言えるように準備してください。個人が用意できればよいですが、こうゆうときこそ広報課のスタッフが首長や事業課長の思いをよくヒヤリングして、インパクトのあるメッセージ構築のサポートをしましょう。契約している広報アドバイザーに相談する、PR会社に旬の話題やキーワードを調査してもらう、スピーチライターに依頼して原稿を作成するといった方法もあります。

パブリシティは話題性がポイント

イベントなどの特質を自主的に提供することで、メディアからの積極的な関心を喚起させ、幅広く報道してもらうことをパブリシティといいます。パブリシティは、一斉多発で集中した記事露出を図ることで相乗効果を狙います。パブリシティ成功のポイントは話題性。パブリシティの素材発掘・開発にあたって必要な視点は、新奇性、突発性、人間性、普遍性、社会性、影響性、記録性、著名性、国際性、地域性になります。読者プレゼントコーナーでの露出を展開するプレゼントパブリシティ、調査結果を発表するアンケートパブリシティなど、さまざまな切り口で活動展開していきます。一つ一つのメディアに対して、特定のテーマでアプローチしていくパブリシティ・プロモートという手法もあります。1つのテーマで1メディアが原則。一つ一つ丁寧に手間と時間をかけていくため、数は多く出ませんが、成功した場合には取扱誌面が大きくなり他メディアに飛び火して連鎖報道を引き起こし、話題が広がっていく効果を狙います。

メディア戦略の立て方

メディア戦略とは、記者が自発的に記事を書けるようにするためのシナリオ作りです。広告やタイアップによる露出を含むこともありますが、ここでは省きます。過去のデータから、記事は広告の2倍価値があるとされています。メディア戦略のポイントは、目的に応じたメッセージとアプローチするメディアの組み合わせにあります。誰に何を知ってほしいのか、誰にどう行動してほしいのか、といった目的を明確にした上で、どのようなメッセージが効果的なのか、どのメディアに掲載されると伝わるのか、そのメッセージを面白いと思って報道してくれるメディア、記者は誰なのかを練り上げて、行動スケジュールを立てます。
 
例えば、ある企業のスポンサーシップで興行会社と自治体が共同でコンサートを実施することになったとします。集客を目的とするならば、「演奏者のコンサートにかける熱い思い」を前面に出し、テレビや新聞、雑誌、フリーペーパーなどで数多く報道されることが成功のポイントになります。すでにチケットが完売であり、むしろ他の企業からも別案件で今後もスポンサーシップを取り付けることを目的とするならば、「スポンサーとなった経営者の思い」に焦点を当て、日経や商工会会報誌などで経営者インタビューが掲載されるように活動していきます。広告と違って、必ずしも計画通りにはいきませんが、発信情報と記者の関心が合うと大きな波動となって広がっていく可能性があります。
 
メディアリレーションズには専門的なスキルが要求されますので、ツール作成、手法の選択、メッセージ開発、実作業の全てを組織内で完結させようとすると時間がかかり非効率的です。企業も先進的自治体も外部を使うことで時間とコストを削減しています。どこから手をつけたらよいかわからない場合には、広報アドバイザーと契約し一定期間コンサルティングを受けて、外注すべきこと、組織内ですべきことを整理するとよいでしょう。イベント告知などの場合には、大量パブリシティが必要となりますので、人手のあるPR会社に外注し、目標達成のためのプレッシャーを与えるとそれなりの成果を出してきます。いずれにせよ、専門家を活用しながら、情報発信する道があることを知っておくとよいでしょう。