日本広報学会にて、2025年参議院選挙における政党SNS戦略を比較し、共通する要素を分析発表
日本広報学会 第31回研究発表全国大会にて発表(2025年10月12日)
日本広報学会第31回研究発表全国大会予稿(2025年10月11日)
*引用する場合には出典を明記してください。
「選挙におけるSNSの有効性と課題を広報視点から考える―2025参議院選挙から―」
| 要旨: 2024年、2025年は、マスメディアに報道されずSNS上で話題となった立候補者や政党が当選したり躍進したりした。SNS上でのデマや炎上マーケティング、アテンションエコノミーも課題として指摘された一方で、AIを活用し公約に取り入れる活用もみられた。SNSとAIの隆盛によって今後選挙はどのように変容していくのか、その中で広報パーソンはどのような役割を果たせるのか。2025年参議院選挙に焦点を当て、SNS、並びにAI活用の有効性と課題をコミュニケーションの観点から整理する。 |
1.問題意識の背景
2024年はソーシャルメディアが選挙を左右する画期的な年になった。7月の東京都知事選ではSNS上で話題となっていたもののマスメディアではほとんど報道されず無名に近かった石丸伸二が165万票を獲得して2位になった。10月の衆議院選挙(以下、衆院選)では、SNSの発信戦略に工夫が見られた国民民主党が躍進した。マスメディアで批判報道が繰り返され、不信任決議で失職した斎藤元彦知事がX上で「#斎藤知事がんばれ」と突如トレンド入り(2024年9月10日)し、11月の兵庫県知事選で奇跡的な逆転当選を果たした。このように世論形成と行動変容に影響を及ぼす事象が見られた。
他方で、SNS上の誹謗中傷やデマ、フェイクニュースが拡散され、選挙を混乱させる事態も発生した。一般社団法人新聞協会は、選挙期間中の報道自粛を過度であったとし、「インターネットを取り巻く現状を踏まえて選挙報道の在り方を足元から見直し、国際的なファクトチェックの手法なども参照しながら、有権者の判断に資する確かな情報を提供する報道を積極的に展開していくことを確認する」声明(2025年6月12日)を発表した。
広報PR業界も無縁ではない。兵庫県斎藤知事の広報活動を担っていたとするPR会社の社長がSNS戦略の舞台裏を明かし、公職選挙法違反の疑いで強制捜査を受ける事件に発展した。こうした事態は広報PR業界全体のレピュテーションを棄損することにつながりかねない。公益社団法人日本パブリックリレーションズ協会には倫理綱領があるがそれだけでいいのだろうか。日本広報学会ではできることがないだろうか。こうした危機感と期待感から本年4月に日本広報学会の中でSNS選挙研究会を立ち上げ2025年の都議選と参議院選挙(以下、参院選)について参加メンバーが各自調査を進め、研究会で議論を重ねた。本発表では、2025年の参院選に的を絞り、各政党のSNS戦略を比較し、有効性と課題について広報の視点から考察する。
2.2025年参院選での各政党SNS戦略
SNSで支持を拡大してきたネットの新興政党と位置付けられていた参政党が大躍進し、多くの人を驚かせた。SNS戦略はどうだったのか、AIの活用のブロードリスニングは進んでいたのだろうか、デマ対策はどのようにしていたのだろうか。この疑問を解明するため、各政党のSNS戦略についてインタビュー記事や記者会見、街頭演説を参考にして比較し、傾向分析を試みた。
参政党は2020年4月に神谷宗幣を中心に結党された政党で、2022年の参院選で177万票を集めて1議席、2024年の衆院選で3議席、2025年参院選で14議席を獲得した。支部活動と支部党員による立候補者擁立の仕組みで地方議員はこの3年間で155人輩出してきた。神谷は次のように述べている。「最初はYouTubeで集めたんでSNS。でもこの3年間は違う。289ある衆議院小選挙区のうち287に支部を作り、7万人の党員サポーターさんの皆さんがコツコツ活動してくださった。・・・キャッチコピーがうけているという話がある。日本人ファースト、というのは党員の皆さんからの要望。SNSでアンケートをとったら、日本ファースト、日本人ファーストが多かった。党員の皆さんはそれを訴えてほしいんだな、我々に代弁してほしいんだなと思ったので、一部批判はあったがこのキャッチコピーにした」(2025年7月6日、大宮)。「支持が拡大する過程で一番強いのは口コミだ。党員らが『ネットだけやっていてはダメだ』とリアルで1日3人に声をかける運動などを自発的にしてくれる。Xの中で情報共有するサークルができている」(2025年7月5日、日経新聞)とし、SNSを駆使した政党の顔から支部、地方議員による組織づくりの基盤で成り立つ政党に変貌を遂げていた。SNSの運営戦略については、「30代前半の若手をチームに入れて分析や運営を任せている。SNSで何が受けるか私がわかるのは40〜60代くらいまでだ。感覚が違う。20〜30代は若手に見てもらっている」。危機管理はどうか。「党として投稿内容が虚偽かどうかまでチェックはできないが、他人を攻撃する投稿は避けるよう、お願いしている。党員同士の攻撃的なやりとりには私自身もSNSを巡回している」と党員の発言リスクをマネジメントしている。
玉木雄一郎を代表とする国民民主党は2020年に衆参議院議員13名で結党。2024年衆院選では公示前7議席を28議席と4倍にした。玉木は直後の会見で「著作権フリーにして切り抜き動画を皆さんにお願いした」(2024年10月28日)と語っている。玉木個人は2018年からユーチューブを開始し、ライブ配信で登録者数を増やした。2019年に動画政党になる方針を掲げ、党本部の中に動画制作スタジオを作った。番組でコメントを募集して国会質問に取り込み、党のAIはそのデータを学習したという。2025年参院選にあたって広報担当の伊藤孝恵はSNS戦略について次のように述べている(2025年7月5日、日経新聞)。「生成AIに、Xの投稿、YouTubeのコメントやグーグルのアンケート、政党の電話窓口『こくみん電話』などを通じ得た意見およそ6万件(5月14日時点)を独自に学習させ、公約から漏れた論点を発見するのに使っている」。これまで公約に反映させたのは「障害のある子どもが18歳になると、これまで通えていた放課後デイサービスなどが利用出来なくなり、親が仕事を辞めてケアにあたる『18歳の壁』問題への対策だ。外国人土地取得規制、スパイ活動防止対策の強化も参院選の公約に追加した」。これはまさにブロードリスニングである。発信だけではなくAI活用による広聴と公約、国会質問への反映をしている。AIを危機管理にも活用しており、「AIに国民民主の活動データを学習させておくことで、自党に関するデマや虚偽の投稿に対し2〜3時間以内に素早く事実確認し、党公式ページなどで指摘する体制を整える。Xでユーザー同士が(情報の正確性に問題があると考えた)投稿に対し注釈をつける『コミュニティーノート』で(党公式の情報を)引用してもらえるように発信する」。デマ対策は参政党よりも一歩進んで体制構築がなされている。参院選では、17名が当選し、公示前9議席から新勢力22議席と大幅増となった。
日本維新の会(以下、維新)は、地域政党としてスタートし、全国に勢力を拡大していった。参院選では、公示前17で選挙後新勢力19議席と微増だった。広報を担当する阿部司総務会長は、2024年の衆院選を振り返り「維新が改革政党だと伝えきれなかった。既得権益に切り込み、財源を生み出して還元するとSNSで繰り返し伝えるのが基本路線だ」と回答(2025年6月26日)。2025年の参院選のネット戦略にあたっては、SNS運営、広告宣伝などの専門家でチームを立ち上げたという。「幅広い年齢層が見ているYouTubeが主戦場だ。5月に特別党員50人向けにメディアリテラシーや編集スキルを高める研修を立ち上げた。動画発信で5000本を目指している。TikTokの公式アカウントも立ち上げた。吉村洋文代表が社会保険料引き下げを訴えるショートドラマは好評だ」「ブロードリスニングで広くSNSの声を拾い政策に生かす。社会保険料引き下げに関する声をキャンペーンに活用し選挙の争点にしていきたい。新聞の意見広告やタウンミーティングなども組み合わせて給与明細を見てもらう運動を仕掛けている」とし、SNSとAIで広聴し、争点を明確にし、繰り返しのキャンペーンで意識喚起と行動といったプランを立てていた。維新は7名が当選し、公示前18から19議席となった。
自民党は、TikTok公式アカウントを開設した。その理由について平井卓也広報本部長は「インスタグラムと違ってアルゴリズム上、党アカウントをフォローしていない人にも届きやすい。縦型動画なのでYouTubeのショート動画にも使い回せる若者向けには1分政策ショート動画。高齢者には10分動画。地上波のテレビに政治番組がほとんどない。高齢層を含めユーチューブなどを見る人が増えているからだ」(日経新聞 2025年7月6日)と説明した。AIについては、政策キャッチコピーづくりでの活用にとどまる。自民党は、公示前114から新勢力101議席と大幅に減らした。
2024年の衆院選ではTiktok、切り抜きを活用したという公明党は、YouTubeで新しい支持層開拓のため2つ目の公式チャンネルを2024年1月開設した。広報委員長を務める谷合正明参院会長は「若手職員のアイディアを否定しない方針とし、党への批判的な見方や議員の給与明細、他党の議員出演など異例な内容にした。結果として6か月で13万登録になった」という。「SNSで呼びかけたインターネットアンケートの結果を人工知能(AI)で分析し政策につなげた。具体的には『奨学金返済の負担軽減のため、税控除の仕組みを入れてほしい』という声を拾い、今回の参院選の重点公約へ反映した」とし、広聴としてSNSとAIが活用されている。「デマ対策は成果を出せていない。誹謗中傷は多く対処が難しい」とし、デマ対策は遅れている。公明党は、公示前27から新勢力21議席となった。
共産党は、24年10月の衆院選後新たに動画を200本作成し、数十万の再生もあったとし、2024年12月にはSNSの発信強化へ党内にSNS戦略室を設置した。SNSは2013年のネット選挙解禁のころから積極的に取り組んできたが、いまは後塵を拝している。広報・宣伝だけでなく、双方向の対話を通じて政策にも反映させようとしている。新たな活動としてアンケートで意見を募集し答える対話を実施しSNSで発信。500万人との対話を目指し、現在は140万人ぐらいの対話を実現したという。戦略室の副責任者を務める山添拓政策委員長は「60歳以上といった高齢者がメインだったが、10代から50代までの年代も多く反応している。SNSの発信ではショート動画が大事だ。国会論戦の中身をどんどん出した」(2025年7月6日、日経新聞)と回答。共産党は公示前11から新勢力7議席となった。
横這いだった立憲民主党のSNS戦略はどうだったのか。2025年1月にSNSの発信強化のため幹事長室直轄の対策チームを立ち上げた。実務責任者を担った幹事長特別補佐の中谷一馬によると、広報本部として全議員・職員を対象にしたオンライン勉強会を3回実施。プラットフォーム別の利用方法を学んだり、各SNSに特化した専門家、大学教授からヒアリングを受けたりする場を設けたという。SNSのデータについては「定性データの報告書があがってくる。他の調査とあわせて党の理念と政策をセットで知ってもらえるよう発信する方法の改善を重ねている」との認識を示し、ブロードリスニングとしての活用は発想すらしていない。デマ対策については「思想・良心の自由がある。排除したり無理にマネジメントするより一緒に研究して正しい情報を共有する努力が必要」(日経新聞 2025年7月6日)とし、対策が全くできていない。
| 図1.各政党のSNS戦略比較一覧(筆者作成)省略 PDFをご覧ください |
ネット新党として2024年衆議院で初めて議席を獲得し、今回の参議院でも2議席を確保した日本保守党は、2024年12月に党として初めて公式チャンネルを立ち上げた。河村たかし共同代表は「国会質疑の切り抜き動画の表示数はXで600万回以上だ。対面でここまで多くの人には会えない」とSNSの発信力は活用しているが、「SNSでの反響は政策に生かすための会議はしていない」としている。
3.SNSとAI活用の将来像
各党のSNS戦略を、対策室設置、その中での強化策、研修の実施、公約への活用、デマ対策、現時点における組織の課題、と6つの項目で比較分析を行った。2024年12月から2025年1月にかけてSNSに遅れをとっていた4政党が対策室を設置していることから、2024年は「SNS選挙元年」となったといえるだろう。TikTok、ショート動画は各党力をいれていることからもはやポスター同様のデファクトスタンダードになった。
参政党はSNSよりリアルの口コミを重視し、国民民主党は著作権フリー素材提供で応援促進策を展開していることから、今後はファン化していくこと、応援しやすい素材づくりや環境づくりがSNS戦略のカギとなりそうだ。国民民主党、維新は、ブロードリスニングを実現し、SNSとAIを使い公約に反映していた。公明党と共産党もこれから同じ仕組みを作ろうとしていることから、SNSは対話や広聴機能としての活用に広がっていく可能性がある。国民民主党、参政党以外はデマ対策が遅れている。SNS戦略で一歩先をいく両党が対策をしている理由は、風評被害のダメージが大きいとみなしているからだろう。SNS戦略とはデマ対策を含めた体制作りであるといってよい。LINEのオープンチャットはまだ十分研究できていない。引き続き、SNS戦略に必要な要素を整理する。
文献=
NHK参議院選挙開票速報(2025)https://www.nhk.or.jp/senkyo/database/sangiin/
日経新聞 ネット戦略各党に聞く(2025)
奥山俊宏(2023.3.28).参政党など新興3政党とメディア: YouTubeなどSNSで支持拡大、新聞・テレビに矛先——上智大学コミュニケーション学会「コミュニケーション研究」