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「月刊教職研修」12月号に寄稿

「月刊教職研修」12月号に寄稿

コロナ禍における保護者からの要望対応

 

新型コロナへの不安については人それぞれ温度差があります。学校としては文科省の方針にしたがうものの、個別の要望にどう対応したらいいのか悩んできたことと思います。リスクマネジメントの基本原則からすると先手で方針を明確にしていくことです。では、現場ではどのようなお悩みがあるのでしょうか。複数の自治体教育委員会、校長研修、アンケートから浮かび上がったキーワードは、「マスク着用」「修学旅行」「保護者が法律に詳しくて対応に苦慮」。現場で起きたこととその対応方法について考えていきましょう。

 

筆者の仕事仲間Aさんは40代後半で小学生2年生の男児と中学1年生の女児の父親です。2021年5月のことです。「息子がマスクしたまま体育の授業受けて倒れてしまって保健室に運ばれたんですよ。マスクして体育なんてありえない。いったいどうなっているんだ」と憤慨。学校にクレームをした方がいいのか逡巡していましたが、「感情的になってはいけないからその前にまずはきちんと調べよう」と気持ちを落ち着かせ、Aさんは文科省はどんな指導をしているのかを調査。ところが文科省では、体育の授業ではマスク着用を義務づけていないことが判明。彼は混乱しました。一体なぜ、その学校は文科省の方針と違うことをやっていたのでしょうか。Aさんからその後報告がありました。

 

学校としては体育の授業ではマスク着用をしない方針だった。Aさんのお子さんは、他の子がマスクをつけているから自分もしないといけないと何となく思った。その結果、子供達が自主的に皆がマスクをしてしまう状態になった。担任の先生は大学を出たばかりで、子供達のそのような集団行動を止めることができなかった。

 

「体育の授業でマスクをしない」という方針があっても「体育の授業でマスクを禁止する」のと「マスクをしなくていい」のとでは、現場の受け止め方は相当変わってしまいます。曖昧な言葉はコミュニケーション上の誤解を生じさせます。命に関わる問題については決然とした言葉を使う必要があり、それが学校への信頼につながります。

 

では、どうしたらよかったのでしょうか。ここでは校長が明確に「体育の授業ではマスクは禁止」と断固たる態度で保護者に対して事前にアナウンスする必要があったといえます。熱中症で倒れるリスクと新型コロナ感染リスクを比較すれば納得しない親はいないはず。それでもマスク着用を主張する保護者がいれば、それはまさに熱中症による死亡リスクとその後の訴訟がみえてきますので、顧問弁護士に相談した方がよいといえます。

 

修学旅行の実施についても保護者の声としては実施してほしい、すべきでない、で意見が分かれる行事だろうと思います。これについては顧問弁護士に相談して、キャンセルポリシーを明確にした申込書を作成した事例がありました。申込書に、学校としての判断の時期、社会情勢や学校内での感染によって変化すること、本人や家族に感染の疑いがある場合には参加できないこと、参加人数の変化によって費用が変化すること、現地で発熱があった場合の引き渡し等を明記し、スムーズに進められたとのこと。

 

ここで記載した「顧問弁護士」は、必ずしもスクールロイヤーではありません。スクールロイヤーは学校で起こるいじめや保護者とのトラブルを法的に解決する弁護士のことで、教育委員会から学校に弁護士が派遣される制度です。2020年度から文部科学省は全国に配置する方針を示していますが、学校に弁護士が派遣される体制が整うまでは時間がかかりそうです。それまでは、自治体が契約している顧問弁護士に相談しながら現場での対応を行うのが現実的でしょう。

 

筆者が以前教育委員をしていた調布市教育委員会では、新型コロナウィルス感染症については、2020年4月に感染症予防ガイドライン初版を出してから、数か月ごとに改訂し、今年の2021年9月8日版は5回目。刻々と状況が変化する中で、現場が困らないように対応マニュアルをその都度バージョンアップして方針については明確してきたとのこと。

 

しかし、保護者に向き合うのは学校です。方針が明確でも、曖昧な言葉やアイコンタクトがない態度であれば伝わりません。コミュニケーションの観点からすると同じことは3回繰り返さないと相手に浸透しないと言われています。たとえば4回堂々巡りとなった場合には、教育委員会や顧問弁護士に相談する、と単純に回数で区切って次の対策に切り替えるルール作りをしておけば判断基準ができてマネジメントしやすいのではないでしょうか。

 

 

<ポイント>

学校の方針はいち早く決めて、保護者から問い合わせがある前に説明する。明快な言葉とアイコンタクトで信頼される態度であること。法的リスクがあると感じた場合には教育委員会や自治体の顧問弁護士を活用する。

 

 

執筆者プロフィール

石川慶子(いしかわ・けいこ)

東京都生まれ。東京女子大学卒。国会職員として勤務後、劇場映画やテレビ番組の制作を経て広報PR会社へ。二人目の出産を機に2001年独立し、危機管理に強い広報プロフェッショナルとして活動開始。リーダー対象にリスクマネジメントの観点から戦略的かつ実践的なメディアトレーニングプログラムを提供。有限会社シン取締役社長。日本リスクマネジャー&コンサルタント協会副理事長。調布市では、学童連合会会長、PTA連合会会長、教育委員を保護者の立場で歴任。近著に「なぜあの学校は危機対応を間違えたのか」。

 

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