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RMCA*会報誌への寄稿(2003年3月)を一部改訂して掲載
広報コンサルタント 石川慶子

メディア・トレーニングはリスクコントロールの一手法

メディア・トレーニングとは、マスコミや世論の現状を把握し、記者会見やインタビューに対してスムーズに対応できる能力を育成する訓練のことです。アメリカでは、政治家や企業トップ、広報担当などのスポークスパーソンは必ず受ける訓練として定着しています。日本においてはこれまで殆ど知られていないトレーニングですが、ここ数年の企業不祥事多発により、リスクコントロールの一手法として次第に認知されてきています。

なぜメディア・トレーニングが必要なのか

ある大手商社が社員の不祥事についての説明責任を果たさなかったがゆえに、記者が会社に殺到して広報部長を突き上げ、挙句の果てに、所属する記者クラブへの出入り禁止までされたことがあります。緊急事態発生時にマスコミはまずトップの説明責任を要求してくることを知らなければなりません。
 
企業トップが説明責任を果たさなかったり、記者会見や取材時に対応を誤るとどのようなことが起るでしょうか。マスコミでのマイナス報道、消費者離れ、株価の下落、ブランドイメージの失墜、売上の低迷、従業員のモラル低下等、そのダメージは深刻です。対応を誤ると第二のクライシスが発生する危険があることを肝に銘じる必要があります。
 
マスコミと一口に言っても、テレビ、新聞、雑誌でそれぞれメディアの特性は異なります。部署によっても記者の関心事やジャーナリスティックな視点が異なりますから、対応するメディアの特性や記者の関心時とその背後にいる読者や視聴者層を理解して対応をしなければなりません。記者会見という多数の記者を相手にコメントをしていく場合とインタビューで記者が深く踏み込んでくる場合の対応も異なります。テレビ取材の場合などは、数秒単位での放映しかされないため、的確な短いコメントが非常に重要になってきます。
 
メディア・トレーニングではシミュレーションを中心に行います。頭で理解しても実行はできないからです。表情や話し方、服装や髪型など外見上の注意事項もチェックして講評します。特に女性を重要な消費顧客としている企業は外見には細心の注意が必要です。テレビで初めて愛用製品の企業トップを見た時に、よい印象を与える事は大変重要なブランドコントロールです。もしその時にイメージを悪くすれば、女性顧客は二度と商品を購入しなくなるでしょう。

メディア・トレーニングの目的

トレーニングには3つの目的があります。
1) 記者からのどんな質問にも的確に答えられるように準備すること
2) 記者からの辛辣な質問や誘導尋問に慣れ、的確に対応できること
3) 記者から理解され、信頼・好感をもたれること
 
記者会見の設定をする場合には、必ず想定問答集を作成しますが、実際には記者は想定していなかった質問もしてきますし、答えを誘導するような質問をしてきます。ベテラン記者の場合には、実に巧に答えにくい質問をしてきます。このような場合、想定していなかったからといって回答をしないわけにはいきません。特に「ノーコメント」という言葉そのものが大変印象を悪くします。また、記者は仮説を立てた質問をする傾向が強いので、この場合にも答え方を慎重にしなければなりません。すぐにその場でわからないことやあいまいなことについても対応方法の基本を身につけていれば余裕をもって回答することができます。オープンマインドな姿勢で余裕をもってにこやかに対応する人には自然と親近感や信頼感が沸いてくるものです。

平時と緊急事態発生時のメディア対応の違い

平時の記者会見では企業トップが自社のミッションやビジョンについて自信をもって語る姿勢によって企業のブランドイメージを高める効果があります。さらに、ユーモアやウィットにとんでいれば当然好感度が増しますが、緊急事態での記者会見は来る記者も経済部ではなく社会部になり、関心の視点は社会への利益還元ではなく、社会的責任になります。よって、確認できている事実については、誠意をもって情報開示をする姿勢が求められます。決して平時と同じ気持ちで望んではいけないのです。

メディア・トレーニングの内容

メディア・トレーニングの項目と内容は下記のようになっています。通常は、レクチャーとトレーニング、コーディネイトの組み合わせで2日間かけて実施します。一日もしくは数時間に短縮して実施することもあります。企業トップだけのメディア・トレーニングもあれば、広報担当者や役員も含めてトレーニングをすることもあります。企業のトップによっては、社員に見られたくないという心理が働くことがあるので、シミュレーションは社長単独で実施することもあります。シミュレーションは2回以上行い、その模様はビデオに収録して本人と一緒にビデオを見ながらレビューを行います。シミュレーションとレビューを何度か実施することで確実に改善していきます。料金は、大手PR会社は1プログラム200~300万円で提供しているようですが、簡単なトレーニングであれば50万円からでも実施は可能です。

項目

内容

レクチャー

レクチャーⅠ:メディアの基礎知識

レクチャーⅡ:記者会見、インタビュー、電話、メール対応のポイント

レクチャーⅢ:ジャーナリストが求めるもの

レクチャーⅣ:インタビューですべきこと、してはいけないこと

レクチャーⅤ:外見上の注意事項(服装、ヘアメイク、表情)

レクチャーⅥ:緊急事態の対応、平時の危機管理(リスクマネジメント)。

演習

ポジションペーパーの作成

トレーニング

平時における記者発表会(記者会見)のシミュレーションとレビュー

通信社・テレビ・新聞・雑誌のシミュレーションインタビューとレビュー

緊急事態発生時の記者会見シミュレーションとレビュー

ボイストレーニング

ヴィジュアルコーディネイト

服装、ヘアスタイル、メイク、センスアップ

スポークスパーソンのためのチェックリスト

スポークスパーソンとは、報道発表を担当する役割を担う人を意味します。その役割を担う人は時には広報担当者であったり、社長であったりします、記者会見における注意事項についてのチェックリストの例を参考までに紹介します。こちらのチェックリストは通常の記者会見やインタビューにおけるチェックリストです。緊急事態においては、さらに謝罪方法における細かい注意事項が加わります。実際のトレーニングにおいては、シミュレーション別に想定問答集を作成して実施し、収録したビデオを見ながらレビューを行います。下記のチェックリストは一般的なリストですから、基本のチェックポイントを知った上で、個性に合わせた演出を開発していきます。

態度

質問に対して熱心に耳を傾けたか

平常心を保つ事ができたか

自分で自分をコントロールすることができたか

相手の注意をそらすような態度をとらなかったか

尊大な態度をとらなかったか

内容

事実を述伝えたか

メッセージを正確に伝えたか

事実未確認のことについて憶測で発言しなかったか

専門用語を羅列せず、わかりやすい表現をしたか

ワンセンテンスを短くしてわかりやすい表現をしたか

ノーコメントという言葉を使わなかったか

誘導尋問にひっかからなかったか

敵対的な質問、関係のない質問をうまくかわしたか

他の人や会社を中傷する言葉を発しなかったか

論争を避けたか

目線

背筋を伸ばして座ったか

両足を床に下ろして座ったか

記者が話しているときには、両手を膝の上にのせていたか

自分の強調ポイントでは前かがみになって両手を使ったゼスチャーをしたか

外見

その場にふさわしい服装であったか

スーツの色やネクタイのチェックはしたか

髪の乱れは直してあるか

ヘアリキッドは光りすぎていないか

老眼鏡ははずしていたか

眼鏡の指紋や汚れは取ったか

スーツの肩にフケや抜け毛はないか

汗をかいていないか

顔が脂ぎっていないか(すっきりとしているか)

爪は切ってあるか

 
 
 

オリジナルの演出を考える

国民からの支持が高く強いアメリカのイメージを残したロナルド・レーガンは、実際の本人がどうであったかは別として、国民の前では常に大きく構える態度を示すことで、国民に安心感を与えていたといえます。そのメディア戦略は、首席補佐官のジェームズ・ベーカー、次席補佐官のマイケル・ディーバー、広報担当補佐官のディヴィッド・ガーゲン、大統領顧問のエド・ミースらによって練り上げられました。今でも語り継がれる有名な演出としては、第二次世界大戦のノルマンディー上陸作戦40周年を祝う式典で、実際のノルマンディーオック岬を背にスピーチを行い、ジャーナリストをはじめ多くの国民に「強いアメリカ」のイメージを深く刻み込んだという事例があります。
 
一部始終が公開された道路関係四公団民営化推進委員会では、「七人の侍」の一人であった猪瀬直樹氏がある雑誌のインタビューでこのように答えていました。「私たち5人は今井委員長の辞任劇で前日までシナリオを練っていました。『今井委員長辞めないで下さい』という台詞を言うことも取り決めていました。また、今井委員長が出て行く場面では、全員起立して黙礼することで追い出したのではなく平和的に終わったという演出をしようと考えたのです」。猪瀬氏ならではの計算された演出があったということです。
 
「ベティ・ブルー」「ディーバ」などを作ったフランスの映画監督ジャン・ジャック・ベネックスの来日プロモーションを行った事がありますが、彼はインタビューに来た女性記者には必ず挨拶として手にキスをしていました。この思いもよらぬ行為に、殆どの女性記者は驚きとともに胸をときめかせ、ベネックス監督のファンになってしまいます。インタビューが始まると記者が殆ど理解できないような哲学的な話をし始め、高い次元の思想をもって映像作品に取り組んでいることを相手に強く印象づけました。これはベネックス監督独特のメディア演出でした。
 
メディア・トレーニングは、インタビュー時の注意事項を身につけるだけでなく、自分が人からどのように見えるのか、伝えたい事は伝わっているのか、あるいは効果的に伝えにはどのようにしたらよいか、ということを考える場ともいえるのです。
 

*RMCAとは、NPO法人 日本リスクマネージャー&コンサルタント協会(http://www.rmcaj.com/index.htm)のことで2003年当時は日本リスクコンサルタント協会として活動していました。2006年にNPO法人化。