2020年9月20日、花美術館vol.71 「創生」「富嶽朱映」掲載

「花美術館」vol.71に「創生」「富嶽朱映」2作品が掲載されました。

<作品評論>(文/鈴木輝實)

色の使い方が独特である。彩色法としては筆による点描の並置やグレージングの技法、所々に勢いのある筆のブラッシュ・ストロークを効かせた厚塗りの筆跡が効果的だ。そこにはのたうつように自在に引かれた線、あるいはゆっくり途切れたり、いつの間にかつながったり、無限の宇宙を浮遊する生命体といった神秘的な雰囲気を醸し出している。

また、ゆっくりしたトーンからには音楽的な空間が漂い、緻密な線や点描からは静寂な感情があふれ出ている。非常に洗練された感性で流れるようなリズムを表している。じっと見つめているうちに、日常から切り離され、瞑想の世界へと誘われるような気持ちになる。

 

【創生】2017年油彩 F15号

高彩度の朱赤の背景には様々な形と色が浮遊している。赤く輝いている一際大きな「円」は生命の誕生だろうか、この画面の象徴的存在のようだ。また、背景には点やかすれやグレージングなど、波打つような個々の筆触の連動によって揺らめき、この大きな赤の塊と直線で画面で引き締めている。元々曲線は反動する力が備わっている。右にカーブすれば右への方向性は生まれるが、逆に反対方向の左へ反動するエネルギーも存在しているものだ。力のバランスは均衡であるものの、すべてが静的なものとは限らない。決して散漫になることなく、変化に富んだ形態を、統一感をもって表している。

 

【富嶽朱映】2015年油彩 45.5×53㎝

暁に輝く富士山を描いたようである。重厚な絵具をたっぷり乗せたマチュールによって、主題の赤い山の存在感を際立たせている。ここでも、赤くたなびく雲や山の綾線は左右ジグザグに方向性を変えている。ここで繰り上げられる階律を奏でているとでもいえようか。石川氏は常に情熱的で、且つ、観る者をほのぼのとした幸福感に浸らせるような、創意に満ちた作品を追い求めているのだ。