花美術館VOL.69に「潮騒Ⅱ<集会>」「鎮魂歌」掲載

花美術館VOL.69に「潮騒Ⅱ<集会>」「鎮魂歌」掲載

 

<評論>鈴木輝實

静謐な空気感の創造者

主役の貝や牛の頭蓋骨は、かつては「命」ある生き物であった。2つの作品ともはじめは細部までしっかりと描き込んでいたのであろう。そのあとから要らないものをそぎ落とし、単純な色のグループで丁寧に表現している。主役からは一般的な意味での美しい表現より、むしろ息絶えた亡骸からであっても、形の面白さや感覚的な色のバランスで独自のスタイルを追求しているようだ。

作者はかつては闘志を燃やした牛、あるいはただひたすら沈黙しながら生き延びた買い方、それらの今も呼吸しているかのような鼓動までも伝えようとしている。二作品は古典的なヤニ色と鮮やかな寒色という違いはあっても、色による空気感は抜群である。

 

【潮騒Ⅱ<集会>】油彩・キャンバス F30

 

「潮騒Ⅱ<集会>」は、色鮮やかな水の青い塊のグループが支配している。しかしながら単純な水の色だけではない。ここには周囲のモノの反映や水底の色、水面に見え隠れしている色。何層にも色を叩くような独特な技法の上に立って、下地の色を透かしながら深みのある空気感を創っている。これらの寄せ集まった物言わぬ貝たちは、何かを求めてさまよい、悲しみや絶望そして怒りや喜び、そして希望を語り合っているかのようだ。固有色よりも色彩を自由に奏でているような空間がそこにはある。

 

【鎮魂歌】油彩 キャンバス F100号

「鎮魂歌」は単純化されたヤニ色のグループだけではない。何層にも塗り込まれた堅牢なマチェールをベースに、微妙な色彩の響き合う美しさやいくつもの物体が幾重にも重なっている。この物体の隙間にも段階的な空気感をグレージング技法で丁寧に描いている。ここには光に導かれたドラマがあり、光によって高められた深い感動もある。作者の内面的、感情的そして精神的なものの表出を強調しており、詩情を秘めた静謐な空気感の創造者といえよう。