花美術館VOL.63に「宙シリーズ<集会>」掲載

花美術館VOL.63に「宙シリーズ<集会>」掲載

<評論>嶋田華子

重層的に心に訴える

作者の豊かな色彩感覚が横溢する、明度の高い鮮やかな青の濃淡が印象的な一作。以前石川氏の「バイオーラ」という真っ赤な衣装が印象的な、情熱溢れるフラメンコダンサーの作品をご紹介したが、今回は対照的な色とモチーフで新鮮である。海の恵みを感じさせる貝殻が寄り集まり、囁き合っているようだ。海面から透けて見える岩は繊細な線描で表現される一方、海水は左右に筆を大きくストロークさせながら描き、貝殻は引っ搔いたような筆触と細やかにかつダイナミックに描き分けられている。さて、タイトルの「潮騒」といえば同題の三島由紀夫の傑作が思い浮かぶ。古代ギリシャの散文作品「ダフニスとクロエ」に着想を得て書かれた牧歌的な恋物語であり、本作のようにどこまでも青く美しい海辺を舞台にしている。文学のイメージともあいまって重層的に心に訴えてくる優品である。

 

【潮騒シリーズⅢ<集会>」油彩 F30