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日本広報学会で「第三者委員会報告書から考察できる広報機能の現状と課題」をテーマに発表

日本広報学会 第30回研究発表全国大会で発表しました。

 

2024広報学会全国大会予稿(石川慶子)

 

第三者委員会報告書から考察できる広報機能の現状と課題

社会構想大学院大学 石川 慶子

1.原点と背景
組織での不祥事発生の際、第三者による調査を行い、内容をホームページで発表する一連の流れは定着してきた。筆者はこれらの報告書を参照し、実務に生かしてきた。具体的には、クライアントに提供しているメディアトレーニングの中でリスクマネジメントの考え方や実践訓練の中に思考訓練、判断訓練、行動訓練として取り入れている。
最初に第三者による調査報告書の有効性に気づいたのは、2011年の東京電力福島原子力発電所の事故調査報告書を読み込んだ時である。当時は、民間事故調、国会事故調、政府事故調など複数の事故調査報告書が作成され、原子炉がどうなっているのかの事実確認を巡る伝達やそれを企業や政府が国民に知らせる広報コミュニケーションのあり方が提言された。中でも着目したのは、政府事故調の記述であった。
「総括と提言」において「広報の問題とリスクコミュニケーション」の項目が設けられ、「保安院を含む政府広報にはリスクコミュニケーションの観点から多くの問題点が見られた」と指摘し、「原子力災害のみならず、あらゆる緊急事態の際にも言えることだが、国民と政府機関との信頼関係を構築し、社会に混乱や不信を引き起こさない適切な情報発信をしていくためには、関係者間でリスクに関する情報や意見を相互に交換して信頼関係を構築しつつ合意形成を図るというリスクコミュニケーションの視点を取り入れる必要がある」と提言され、「緊急時における、迅速かつ正確で、しかも分かりやすく、誤解を生まないような国民への情報提供の在り方について、しかるべき組織を設置して政府として検討を行うことが必要である。加えて、広報の仕方によっては、国民にいたずらに不安を与えかねないこともあることから、非常時・緊急時において広報担当の官房長官に的確な助言をすることのできるクライシスコミニュケーションの専門家を配置するなどの検討が必要である」(政府事故調 p427)と明記されたからである。
これが筆者の原点である。本発表では、調査報告書の中に広報部署本来の機能と共に果たせなかった役割が記載されるケースが増えてきたことから、複数の調査報告書を時系列分析、初動分岐、パターン分析視点からリスクマネジメントとしての広報機能について現状と課題を整理する。

2.第三者委員会ガイドライン
第三者委員会ガイドラインの代表的な枠組みは、2010年に日本弁護士連合会が策定した「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」(以下、第三者員会ガイドライン)である。
第三者委員会ガイドラインは、企業等の活動の適正化に対する社会的要請が高まる気運をうけて、「経営者等のためではなく、すべてのステークホルダーのために調査を実施する」と、誰のための調査かを明確に示している。「対外公表することで企業等の信頼と持続可能性を回復することを目的とする」として、対外公表による信頼維持を示し、「企業等から独立した委員のみをもって 構成され、徹底した調査を実施した上で、専門家としての知見と経験に基づいて原因を分析し、必要に応じて具体的な再発防止策等を提言する」と、調査委員の立場と実施する内容を規定している。さらに、「各種証拠を吟味し、自由心証により事実認定を行う」と「自由心証」を認めている。「ステークホルダー視点に立った事実評価」「事務担当者と企業との間に厳格な情報隔壁を設ける」「経営者に不利なことでも記載する」「報告書提出前に企業に開示しない」と運営方法についても細かく明文化されている。
自治体の場合には、法律で規定されている百条委員会が設置されることもあるが、筆者は調査としては懐疑的である。なぜなら、百条委員会は虚偽の陳述には罰則が課せられるといった強い権限があるものの、調査権は議会にあり、調査のプロではない議員による証人喚問となるため、真実へのアプローチより、政治権力闘争に陥るリスクもあるからだ。

3.調査報告書に記載された広報担当者の行動
筆者がこれまで読み込んだ第三者委員会報告書の中で、広報機能が言及されている6社について概要と広報記述部分を抜粋する。調査報告書発表順に取り上げる。
三菱電機は2021年6月14日、顧客と合意した品質試験の一部を実施していないことを社内調査で掴んだ。翌日には社長に報告した時点までは迅速だったが、その後、25日に取引先と所轄官庁への報告をしたものの29日の株主総会では説明しない決断をしてしまった。そのことが30日に報道され、7月2日の社長会見で当初予定されていなかった社長辞任表明がなされた。
なぜこのような判断ミスをしてしまったのか。「当該顧問弁護士より、総会後に公表することにつき違和感はない旨の見解を得た」「社会システム事業本部長、生産システム本部長、コーポレートコミュニケーション本部長らが打合せを行った際にも、株主総会前に公表することの是非を再検討したが」「7月2日に公表予定とする方針を変えないこととした」(調査報告書第1報 p12)と記載された。
この記述から、ステークホルダー目線での情報流通をチェックする広報部が機能不全になっていることがわかる。監督官庁には報道機関が張り付いており、報告したらそのまま筒抜けであるという基本知識が広報部になかったゆえの判断ミスである。そもそも弁護士は法的チェック機能であり、情報流通の予測とチェックは広報部の仕事である。
日本大学のアメリカンフットボール部に2022年10月23日、保護者から、学生寮で大麻を使用しているという告発文が届いた。これを受け、学生らに調査をした結果、複数名による大麻使用を確認した報告書が作成されたが、12月21日広報部は報道機関の問い合わせに事実を否定した。翌年2023年7月6日、副理事長は警察からの依頼で学生寮を調査した結果大麻を発見。さらに7月18日に保護者は理事長当てに複数名での大麻使用について告発文を郵送し、そこには報道機関にも送付していると書かれていた。7月19日広報部長は「調査中。見つかっていない」と回答。8月8日、理事長は複数名であることを把握しながら「たった一人」と発言。
第三者委員会の報告書には「危機管理の広報が非常に重要であるにもかかわらず、広報部には十分な調査権限もなく、本事案の対応でも主導的な役割を発揮できなかった。それが、報道機関に対する不適切な回答やプレスリリース、本法人の社会的信用を失墜させるような記者会見の実施などの一連の報道対応につながったものといえる」(調査報告書 p92)とされ、広報部の権限と役割欠如が事態の悪化を招いたと指摘している。
損害保険ジャパンは、ビッグモーター社との取引における自動車保険金不正請求問題で、第三者委員会による調査結果が2024年1月16日に公表された。2022年1月に不正の情報提供を受け、7月6日に役員ミーティングを開催したが、広報・法務担当不参加の中で会議が開催され、一旦取り止めた取引再開を決定。「広報部は、法コン部と同様に風評リスクの観点から本件の事実経緯は把握していたが、8月29日、X社のオンライン記事が配信され、その後同誌からの本件に関する追加取材の申入れを受け、9月3日、経企部に対し、風評被害拡大の観点から関与してほしいと要請」(最終報告書 p45)するのみ。8月29日の報道後には、危機感醸成の主導的役割を担えるはずだが、他部署を巻き込むだけで、経営者に対して進言するといったチェック機能を果たす行動をしていない。受け身体制がみてとれる。
日本テレビで放映された小学館の連載漫画「セクシー田中さん」問題は、脚本家と原作者によるSNS投稿が引き金となった。未完だった原作の9,10話のドラマ脚本を原作者が書き起こすことになったことから脚本家が日本テレビに不信感を持ち、12月にSNSに投稿。それを受けて原作者が1月末にSNS投稿。脚本家に批判が向けられるという意図しなかった事態になり原作者は自殺した。
日本テレビ側は「SNS 等で制作の裏側を書くのは適切ではないと思ったが、本件脚本家個人の SNS における投稿については個人の表現の自由」として投稿を止めず、投降後の炎上後も「日本テレビが削除を求める法的根拠は乏しいのではないか、また、削除要請をすることが 表現の自由の侵害である旨の主張等がなされるリスクもあり、本件脚本家に対して投稿の削除を申し入れることはできないと考えた」(調査報告書p72)。法的観点のリスクのみ検討し、自社リスクを優先させ、作家にもたらすステークホルダー視点が欠けた判断である。ここには広報視点がなく、広報部関与の必要性も記載されていない。
小学館の報告書では、上司や担当常務取締役まで報告していなかったとし、「SNS 投稿がされる前の段階で小学館の法務室、広報室への相談がなかったことは、今後同種の事案が発生した際に留意したい。日頃からリスク対応を行っているこれら部署に相談があれば、同氏の投稿を止められなかったとしても、起こりうるさまざまなリスクの説明はできたかもしれない」(調査報告書p81)。日本テレビが自社へのリスク視点のみであるのに比べ、小学館は作家視点があり、リスク対応する広報部署の役割が記載されている。
小林製薬の紅麹菌問題は、2024年1月15日に症例報告があったが、社内調査開始が2月5日、回収決定は3月16日、プレスリリースは3月22日と初動が相当遅れ、批判された。7月22日に公表された調査報告書には、広報部の記述がないものの、レピュテーションの相談を信頼性保証本部が弁護士にしているため、この部署がレピュテーション管理も兼ねているように見える。「弁護士らは、広告のみを中止すると、あたかも本件製品自体にリスクがあると同時点で小林製薬が把握しつつ販売を継続していると捉えられかねないことを指摘した」とされ、会長は広告自粛の意見を述べたにもかかわらず、「行政報告は行わないことは妥当」「広告出稿については現状を維持する」(調査報告書p38)と結論を出した。なお、同社の社外取締役には、レピュテーションの専門家も存在しているが、社外取締役への相談はなく、回収決定後に報告を行っている。レピュテーションの専門家でない弁護士に相談した結果のみを採用している。

4.比較分析のまとめ
5事案6社について比較分析をした。時系列分析では、5事案中「セクシー田中さん」問題以外の4事案で広報部は危機発生時から関与はできている。このことから初動で関与する必要性があるとは認識されている。初動でダメージを最低限にする役割を果たせたかという初動分析では、三菱電機は株主総会で説明しない決断で拡大させた。損保ジャパンは報道で危機感を持って経営者に進言するまで至らず、日大の広報部は自ら事実確認する行動がなく、日本テレビは法的観点のみの検討で広報部との連携が見当たらなかった。初動分析で共通するのはステークホルダー視点についての想像力不足が共通点として浮かび上がる。パターン分析では、三菱電機、日大、日本テレビ、小林製薬の4社とも弁護士意見任せの傾向がみられた。
危機発生の初期段階から関与できているが、法的観点からのみの判断である現状が報告書で確認できた。情報流通の基本知識とステークホルダー視点を持ち、事実を確認する質問力、リスク拡大への想像力、レピュテーション責任者として弁護士や経営者に自信をもって意見が言える主導力を身につける必要があるといえる。今回、筆者が日頃感じている広報現場の課題を調査報告書で明らかにできた。今後も調査報告書を活用した研究を進めたい。

文献=
企業不祥事等における第三者委員会ガイドライン(2010年)
小林製薬株式会社 事実検証委員会「調査報告書」(2024年7月22日)
株式会社小学館 調査報告書(2024年6月3日)
SOMPOホールディングス株式会社 自動車保険金不正請求に関する社外調査委員会「中間報告書」(2023年10月10日),「調査報告書」(2024年1月16日)
東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会 最終報告書(2012年7月23日)
日本大学アメリカンフットボール部 薬物事案対応に係る第三者委員会「調査報告書」(2023年10月30日)
日本テレビ放送網株式会社 「セクシー田中さん」調査報告書(2024年5月31日)
三菱電機株式会社 品質不適切行為に関する「調査報告書」第1報(2021年10月1日)

 

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