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公式行事における外見リスクマネジメントの必要性について

2018年2月17日開催 公共コミュニケーション学会 第4回事例交流・研究発表大会 発表予稿

2018年2月17日事例交流研究発表会

「公式行事における外見リスクマネジメントの必要性について~教育委員の体験から女性リーダーの姿を考える~」

 

石川慶子,高野いせこ,鷹松香奈子

 

要旨  教育委員の重要な仕事の1つとして各学校における公式行事への参加がある。中でも卒業式と入学式は最重要公式行事である。学校教育では、勉学だけでなく服装や立ち居振る舞いも含めて子供たちのお手本になることが求められるといえるが、女性は男性のように服装について決まったルールがないため戸惑うことが多い。このような経験から、女性リーダーの公式行事での姿について考察を深め、どのような視点を持てばよいのか方向性を見出すことを目的とする

 

キーワード 女性リーダー,公式行事, 礼装,準礼装,略礼装,正装,正礼装,フォーマル,

セミフォーマル,インフォーマル,服装規定,服装マナー,ドレスコード,

立ち居振る舞い,卒業式,入学式,お辞儀

 

1.はじめに

2015年2月、「外見リスクマネジメント」が石川慶子から提唱された。外見リスクマネジメントとは、自分のイメージする姿と実際に見えている姿のギャップをリスクと捉え、見られたいように自分の姿をマネジメントすることである。注1)

この外見リスクマネジメントを提唱した背景には、石川慶子が教育委員として人前に立つことを意識せざるをえない経験があった。具体的には、石川慶子は2012年7月に調布市教育委員になったが、教育委員としてのミッションを果たす中で、服装と立ち居振る舞いで戸惑い、個人的課題を抱えたことから多くの女性リーダーが感じていることではないか、あるいはこれから女性リーダーの活躍を推進するために必要な考察・研究視点ではないかと仮説を立てたことがきっかけとなっている。

今回は、人前に立つ自分の姿をマネジメントする必要性を痛感し、スタイリストの高野いせこ(実績35年、1万回以上のコーディネイト)、モデルウォーキングインストラクター鷹松香奈子(講師歴27年、延べ1万人以上指導)からのアドバイスを元に姿をマネジメントすることに挑戦してきた内容を事例として紹介する。公式行事における女性リーダーの服装について課題を提示することで研究方向性の糸口を見出したい。

 

2.外見の定義

カイザーは「外見は他者の目に映る服装・容姿・風采」注1)「学際的な見方からすると外見というのは、自分自身および社会的な出会いに関する手がかりや象徴を伝達する1つの視覚的な手段」注2)と定義している。大坊はコミュニケーションチャネルとして、対人距離、身体接触、しぐさや姿勢、視線、顔の表情、声の大きさや速度、言葉、被服・化粧を挙げている。注3)

わかりやすく整理するため、外見リスクマネジメントにおける外見とは、表情、服装、姿勢、しぐさ、ヘアメイク、体型の6つと定義する。本発表では、服装、姿勢、しぐさの3点に絞る。姿勢としぐさは立ち居振る舞いとしてひとつにまとめる。

 

3.公式行事と主賓

卒業式や入学式は子育てしていれば誰もが参加する機会を持つが教育委員としての参加は特別な位置づけとなる。市内の子供たちにとって要となる行事であるため、石川慶子が所属していた調布市では、祝辞は市長と教育委員会連名となっていた。従って、祝辞は市長、副市長、教育長が担うが、市内全ての学校をこの人数ではカバーできないため、教育委員、部長、課長などの管理職も総動員して、祝辞を代読することになる。祝辞を述べる管理職は主賓としての振る舞いが求められるともいえる。

座る位置も来賓としては最高位の場所であり、全校生徒が一礼する場所にも一番近い。そこから見える景色は保護者として参加した時とは一変していた。一番よく見えるということは、生徒や保護者からも一番よく見えるということであり、その姿は注目を浴びるということだ。

卒業式と入学式も重みが若干異なる。主催者の気持ち、参列者の気持ちも異なれば、日本の場合には時期も3月と4月となるため、気候、寒さ、気持ちも異なるため、さまざまな工夫が必要となる。

 

4.マナーの定義

マナーについて考え方を整理しておく。マナーは英語の「manner」から来ており、意味は「行儀、作法」となる。集合知のウィキペディアの解説は秀逸で、「人間が気持ちよく生活していくための知恵」としている点は大いに賛同する。堅苦しいものとうより、お互いが気持ちよくなるという点はコミュニケーションの観点からも公共コミュニケーション学会で取り扱うことに違和感はないといえる。

さらに、「国、民族、文化、宗教、時代によって異なる」「個人間や価値観、捉え方による差異がある」とする事例として、日本ではお椀を持ち上げて食べることがマナーである一方、西洋ではお皿を置いてナイフとフォークで食べる違いを述べている。文化であればその時々によってマナーは異なるという認識を持つ必要がある。

もっとも共感する考え方は、「『他者を気遣う』という気持ちを所作として形式化しわかりやすくしたもの」である。これは誰もが納得し受け入れられるマナーの定義ではないだろうか。外見リスクマネジメントも「相手目線」をベースとした考え方であることをここで強調しておきたい。

 

5.印象形成における服装の位置づけ

広報ならびにリスクマネジメント関係者へのヒヤリング調査(2017年11月13日~現在継続中)で、印象形成に影響を与える順位は、1.表情、2.服装や着こなし、3.姿勢や立ち居振る舞いとなった。現在も継続しているヒヤリングではあるがこの順位の変化は今のところ見られない。今回服装と立ち居振る舞いを取り上げる。表情を外した理由は、公式行事においては祝辞を読み上げるのみであること別の機会とする。

表1.印象形成に影響を与える要素

 

自治体が主催する公式行事は現在ほとんどが和服ではなく、洋装であること、また、洋装は日常的に着用することの多いことから洋装の服装規定を整理しておく。和服に、裃、振袖、留袖といった礼装があり、着こなし方のルールがあるのと同様に、洋装においても礼服の規定がある。洋装における礼服の服装規定は、「礼装(フォーマル)」「準礼装(セミフォーマル)」「略礼装(インフォーマル)」となる。礼装については、正礼装、正装といった表現もあるが、準礼装、略礼装との比較しやすさからここでは礼装として表現を統一する。

服装規定 女性 男性
礼装(夜) イブニングドレス 燕尾服

 

礼装(昼) アフタヌーンドレス モーニングコート

フロックコート

準礼装(夜) カクテルドレス

ワンピース、スーツ

タキシード
準礼装(昼) ワンピース、スーツ ディレクターズスーツ
略礼装

(昼夜)

スーツ、ワンピース ブラックスーツ

ダークスーツ

表2.服装規定の目安一覧

 

ウィキペディアの他、フォーマルフェア解説ウェブサイトから共通する要素をまとめて一覧にした(表1)。このように一覧にすると、男性は細かい服装規定がある一方、女性には細かい規定がない。それだけ自由裁量が多く、迷いの原因になってしまうのも頷ける。

たとえば、学校の卒業式で男性校長がモーニングコートであれば、女性校長はアフタヌーンドレスとなるが、アフタヌーンドレスはくるぶしまでのスカート丈となり、現実的にはそれほど長い丈のスカートを履くことはできない。主賓として参加する教育委員は男性の場合ディレクターズスーツかブラックスーツとなるが、女性の教育委員の場合は単なるスーツかワンピースという規定になる。男性の場合にはダークスーツであってもネクタイをシルバーにするだけで祝儀の気持ちを表現することができるが、女性の場合、黒を着用すると喪服のようになってしまうため、様々な工夫が求められる。

そもそも、一体服装でどれだけ印象が変わるのか、写真で実験をしてみることにした。図1は、2014年12月に見え方の違いについて最初に行った実験結果である。同じ日に撮影した写真である。立ち方は変えず服装を変えた比較写真である。ジャケットの長さ、スカートの丈、スカートのライン、靴でこれだけ見え方が異なることが確認できた。好みについては人それぞれになるが、色を上下で統一することで縦長に見える、パンプスのバンドがない方が足が長く見えることは確認できた。

図1.服装による見え方の違い

 

次に公式行事における服装について考える。ここで多くの女性が悩むのは光沢感のある黒を着用してよいかどうか、ビロードやラメの入った黒であれば喪服との差別化をすることはできるからだ。ここで石川慶子の失敗事例とスタイリストからのアドバイスで見え方による違いを身につけた後の変身事例を紹介しておく。

教育委員であった石川慶子は略礼装という服装コードを受け、2013年の卒業式ではレースのブラウスとロング丈のスカート、光沢感のある白ジャケットとした。一方入学式は、白のフリルブラウスとロング丈の黒スカート、ラメ入り黒ジャケットとした。しかしながら、この服装表現に違和感をもったため、写真撮影による比較等で研究した結果を考察としてまとめておく。

 

・黒服での撮影は印象が強くなりすぎる。喪服に見えてしまうリスクがある。

・紺色は黒ほどの強いインパクトがないため、印象が柔らかくなる。

・白は顔の明るさ、清潔感を演出できる。

・パールは顔を明るくする効果があるが、黒服にイヤリングとネックレス両方に使うと喪服に見えてしまうリスクがある。

・スカート丈は、足が長く見える丈サイズがある。

・パンプスはバンドがない方が足が長く見える。

 

上記の研究の結果、卒業式では襟が立って華やかに見えるチャコールグレーのスーツを着用することで公式感を高めた。インナーを白にすることでメリハリをつけ、パール二重のネックレスでお祝いの表現をした。(図1)

 

図2.卒業式での服装マネジメント

 

入学式は紺のブラウスとスカートの着用でワンピースに見えるものを選び、白のジャケットでお祝いの気持ちを表現した。(図2)

 

図3.入学式での服装マネジメント

 

このように写真による比較で改めて確認できたことがある。図1を見ると卒業式を白ジャケットにしており、図2の入学式で黒の上下にしていた。つまり、卒業式と入学式の重さを服装で真逆に表現してしまっていたということだ。服装マネジメントが全くできていなかったことが改めて確認できた。

次に「着こなし」を実験する。普段着用している服を公式感ある服装にアレンジする。図4は、普段着用しているブラウスの着こなし方を変化させるだけで公式感を演出できる事例である。詳しい説明はQRコードに画像と音声で吹き込んである。

 

図4.アレンジによる公式感演出実験

 

5.立ち居振る舞いリスク

公式行事における立ち居振る舞いでは一連の動きが決まっている。座ってる状態から、立ち上がり、来賓席への一礼、主催者への一礼、壇上に上がる、国旗への一礼、参列者への一礼。式典中にこの一連の動きを行うのは一名であるため、注目はより一層高まる。なぜなら、人は動くものを目で追うからだ。特に壇上に上がるため全身が注目の的となる。手の位置はどこなのか。壇上で座る女性には大きなリスクが生じる。長時間、壇上で座るとなると、開かないスタイルにする必要があるからだ。両足を揃えるよりも少しずらし片方の足の重量をかけると開かないことが確認できた。(図5)

 

図5.座り方リスクマネジメント

 

図6は立ち方マネジメントの実験である。立ち方では、両足の置き方、スーツボタンを留めるか否かだけで見え方が大きく異なる。見ただけでできそうに思うが、これは意識を積み重ねないと習慣化することが難しい。日頃からの習慣化が必要であるという意味ではまさにセルフマネジメントともいえる。

図7は歩き方のマネジメント実験である。下を向いて足が伸びきっていない歩き方と目線を上げ足を伸ばして歩いている姿を見比べてみよう。下を見ると自然と前かがみになる。目線を上げるだけでカラダは引きあがる。足を伸ばすとさらに上体は上がることが確認できる。

図6.立ち方リスクマネジメント

 

図7.歩き方リスクマネジメント

 

お辞儀については国や地域、宗教、行事内容によってさまざまな形式がある。ウィキペディアによると「挨拶、敬意、感謝」を表すために腰を折り曲げる動作と定義され、伝統的なお辞儀とビジネス界でのお辞儀の違いについて記載されている。検証としては不十分とされており、お辞儀の確度はマナー説明サイトとも異なっている。ウィキペディア以外の出典も含めて参照して共通する点を述べると、お辞儀には「立礼」と「座礼」があること。立礼には、会釈、敬礼、最敬礼の3種類があること、会釈は上半身を15度傾ける、敬礼は30から35度、最敬礼は45から75度と諸説ある。会釈は挨拶、来客への挨拶や会議室への出入りは敬礼、舞台でのカーテンコールや謝罪の場面では最敬礼が目安となる。

基本の所作は、足を揃え手先をまっすぐにして伸ばして揃え、首と背中がまっすぐにする。女性の場合には両手の指先を重ねるようにすることを教えるビジネススクールもある。デパートガールやスチュワーデスと呼ばれていたスタイルをベースにしていると解説されている。意外で興味深い記述は、腰を曲げすぎるとバランスを崩し、男性は手でお尻を支えるようなポーズになってしまうリスクがあること。女性の場合は両手を組み肘を張りすぎると腹痛のような状態になってしまったり陰部を隠すようなポーズになってしまい国際的な場面では非礼と受け取られかねない注5)という部分だ。お辞儀マナーの難しさを深く考えさせられる解説だ。

図8のお辞儀の事例を考察してみる。Aは背中が曲がっている。Bは背中はまっすぐでよさそうだが手が横にあるため男性的な印象になる。Cは首だけがお辞儀をしている。Dはよさそうだが足がずれている。Eはバランスが取れている。シーン別の確度の調整のみ必要だろう。

 

図8.お辞儀の見え方

 

図9.公式行事における動きの研究、対談動画収録

 

6.女性リーダーの外見演出を支える必要性

本研究は女性リーダーが参考にできる服装規定、立ち居振る舞いの目安を提示することを目的としている。

マナーが文化の側面もあるということは、私たち自身がその文化を築き上げる役割をになっているともいえる。政府は女性管理職の割合を2020年までに30%にすることを目標として掲げているが、企業では、6.6%(2016年8月帝国データバンク)、都道府県の地方公務員における女性管理職比率は9%といった数字であり、目標達成には程遠い。

女性リーダー活躍には、人前に出る際の支援体制も欠かせない。女性登用といった環境整理だけでなく、外見リスクマネジメントといった非言語コミュニケーション部分における支援体制の構築も必要ではないだろうか。本発表は、公式行事における女性リーダーを支えるための研究が可能かどうかを検討するために行った。未熟な部分もあるため、公共コミュニケーション学会での活発な議論で実務に役立つ研究として確立したいと考えている。

 

補注

注1) 石川慶子(2014):『外見リスクをマネジメントする』石川慶子公式HP対談ページにて

注2)大坊郁夫,神山進編集(2003):『被服と化粧の社会心理学』,北大路書房,PP.5

注3) S・B・カイザー(1997): 被服心理学研究会訳,『被服と身体装飾の社会心理学』,北大路書房,p.8

注4) 大坊郁夫(2002):主なコミュニケーションチャネル『しぐさのコミュニケーション』,サイエンス社,pp.5.

注5)お辞儀(2017):ウィキペディア

注6)都道府県別全国女性の参画マップ(2017年12月):

http://www.gender.go.jp/policy/mieruka/pdf/map_all.pdf

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