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印象管理に関する先行研究考察、ならびに外見リスクマネジメント具体的手法の試行

2017年11月18日開催 第23回 日本広報学会 全国研究発表大会 予稿原稿

2017外見リスクマネジメント口頭発表(石川慶子)

印象管理に関する先行研究考察、ならびに 外見リスクマネジメント具体的手法の試行
――外見リスクマネジメント研究会 2017 年中間報告――

広報コンサルタント/シン 石川 慶子

 

要旨: 外見リスクマネジメントの必要性と具体的手法に焦点を当てた中間発表を行う。必要性については、コミュニケーションと外見の視点から、海外で研究された「印象管理」「印象形成」の考え方を整理してまとめた。具体的手法については、過去1年間行ってきた少量多頻度接触型学習マイクロラーニングによる情報の整理と現在行っているメディアミックス展開について発表する。今後の挑戦として、これまで貯めたデータ(テキスト、画像、動画)を人工知能で自動生成するコンセプトについて意見を求めたい。

 

1.「コミュニケーションと外見」に関する海外先行研究

外見リスクマネジメント研究会の目的は、1. 定義する、2. 必要性を説明する、3. 具体的手法、 4. 有効性の立証、であり、昨年は1と4について発表したため、今年は、2と3について中間発表す る。2の必要性については、調査した海外先行研究から説明する。3については、ラーニングツー ルを用いての試行を発表する。

 

最初に海外先行研究について解説する。外見をリスクと捉える研究は見当たらなかったが、「コミ ュニケーションと外見」をテーマとした海外先行研究から考察を進める。 ゴフマンは、人々の行為と相互作用という文脈で印象管理(Impression Management)をテー マとする学問的探究を多数行っている。外見を媒体としている点が興味深い。外見が他者とのコミ ュニケーションにどのような影響を与えているか、特に被服と身体装飾に関する社会心理学的アプ ローチを行っている。自身と他者との相互作用において個人の外見はコミュニケーションの観点か ら1つの媒体になる。言語コミュニケーションと非言語コミュニケーションが一致していれば一貫した 印象形成がなされるが、不一致があると一貫した印象を形成することが困難になる、としている (1959)。ソンタークとシュレイターは、被験者の回答「私の服は、私そのものです。その服は、私の 性格にぴったり合っています」を紹介している(1982)。性格と服装が一致していることは相手から の印象形成だけでなく、本人の自覚においてもよい作用が働くことがわかる。 印象管理についてさらに他の研究者の定義をみてみよう。シュレンカーは、印象管理とは、現実 の、あるいは想像上の社会的相互作用に投影される自己のイメージを統制しようとする、意識的な いしは無意識的な試みであると定義している(1980)。ウェスタ―マルクは、被服の役割は体を覆い隠すためというよりも、体の特徴を表したり、強調したりするためにあると最初に指摘した(1921)。ラ ングナーは、人間の体を完全に露出すると好奇心や性的魅力は減少すると主張。衣服は誰かを 魅了したいという願望を象徴している、とした(1959)。

つまり、自己評価を高めるため、あるいは魅 力表現に被服は大きな役割を果たしているということだろう。 自己満足ではなく、他者評価によって修正していくことについても興味深い研究があった。スト ーン(1962 年)は、「他者との相互作用によって外見に対する意味が修正される。他者からの批評 によって外見に示された自己のあり方が正当化されることもあれば、それが他者のひんしゅくを買 い、再評価をせまられることもあろう」。クーリーは、他者が自分に対して形成していると思われる印 象を通した自己知覚過程を「鏡映的自己(looking-glass self)」といった(1902)。人は鏡の中の自 分を観察し、顔・姿・服を見て、他者が自分をどう考えるか想像する。自分の外見・マナー・目標・行 為・性格・友人といったことを考え、その想像から影響を受ける、として、想像、評価、自己感情と 3 つの局面に着目している。リアリーは、自分について他者が抱く印象や態度に影響をあたえようと する試みを自己呈示(self-presentation)とした(1983)。プレゼンテーションの重要性はこの時代 から認識されていたということだろう。

これらの研究結果から、カイザーは、自分の抱いている印象が他者への実際の働きかけを規定 する。相手が自分にどのような印象を持つかで相手の自分に対する行動は決まってくる。従って、 相手の心の中によい印象をもってもらうことがその人との人間関係を発展させるうえで大変重要に なってくる、とした。 具体的な実験データから考察を進めよう。図1は、グリーンとグレスによる調査(1973)で、ネクタイ 着用した調査員に対しては、中産階級の応諾率が高く、労働者階級はネクタイ着用していない調 査員に応諾する率が高かった。自分の服装に近い人に好感を抱くと捉えることができる。
図1.グリーンとグレス調査 図2.ハレル調査 (略)

 

図2は、ハレルによる調査(1978)である。女性調査員が髪を整え、化粧をし、パンツスーツを着 用して「魅力的な外見」で道を尋ねた場合と、同じ女性調査員が髪をとかさず、化粧せず、食べ、 物の汚れが服についた「魅力的でない外見」で道を尋ねた場合を比較した。さらに、自分の名前を 名乗るという自己開示をした場合としなかった場合を比較した。結果は、魅力的外見で自分を名乗 った場合の援助行動が一番長かったという結果になっている。 先行研究をまとめると、外見は印象形成に大きな影響を与え、相手からの評判やその行 動を変える。つまり、評価が高めたり、協力を得られたり、得られる時間を長くしたりと いったことが期待できる。また、外見とは生まれるつきの顔かたちではなく、服装、髪型、 化粧、自己開示などの態度のことであり、意図的に変えることが可能である。反対に、無 防備な状態の外見は誤解を与えるといったリスクになるともいえる。 しかしながら、果たして自分が魅力的であるかどうか、無防備であるかどうか、誤解を 与えているかどうかはどのようにして知ることができるだろうか。自分を客観的に見る、 周囲の評価を聞いてみる、第一印象のフィードバックをもらうといった努力をしなければ 自覚することができない。また、自覚をもったところで、魅力的にするにはどうすればど うすればよいか手法がわからなければ前に進むことができない。

 

2.マイクロラーニングを使った外見リスクマネジメントの手法整理

外見リスクマネジメントの具体的な進め方を検討するにあたって、研究会メンバーや外部参加者 を募っての体験会を実施した。体験希望者からは「行きたいが都合が合わない」「地方なので行け ない」「関心はあるがちょっとした知識をまず得たい」「人前でのフィードバックには抵抗がある」とい った声が寄せられた。一方、講師側は「毎回同じことを話すのは発展性がない」「多くのノウハウを 持っているがいつも一部しか使っていない」といった声があがった。これらのことから、外見リスクマ ネジメントを現実的に進めるためには、繰り返さなければいけない「初めの一歩」、つまり初歩的な 知識はコンテンツ化することでより多くの人たちへのリーチを狙うと同時に講師側の繰り返しの負担 を減らす必要があると考えた。 今回実験で採用したのはマイクロラーニングの学習ツールである。イーラーニングコンソーシアム に参加して比較したところ、設計思想とユーザビリティ相性がよい判断した。マイクロラーニングとは、 少量多頻度接触によって学習する考え方で、日常生活の中での隙間時間での学びを繰り返すこと で定着を図る学習スタイルのことである。スマホから画像、動画を手軽にアップすることができる。実 際に作成したコンテンツは、3 分以内の動画を中心とした内容となった。外見リスクマネジメントの具 体的手法解説文、関連画像、実演解説動画、コンサルティング風景動画、補足解説図、知識定着 のためのクイズ等を入れてみた。新聞との連動、ウェブサイト掲載等で実験してみた。知識定着を 目的にしたクイズでは、何名がアクセスしたかを確認することができた。次ページ図参照は、左から 「メディアトレーニング解説動画」、右図は「服装の着こなし具体的解説」、2 番目の左図は「ウォー キング解説動画」、その下の図は「各コンテンツアクセス者数」、右図は「新聞連動コンテンツ」、そ の下は新聞の QR コードから「各コンテンツアクセス者数」である。クイズへの参加が少ないことから 学習よりは知識習得に意欲があることがわかった。

今後は、体系的なコンテンツ整理だけでなく、人工知能を用いた自動化に挑戦したい。

参考文献
S・B・カイザー『被服と身体装飾の社会心理学』北大路書房,1994
犬坊郁夫、神山進『被服と化粧の社会心理学』北大路書房、1996 年
協力:株式会社 IP イノベーションズ(UMU 提供)

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