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病院の危機管理広報④メディアトレーニングで客観的に訓練

CBニュース掲載 2015年3月執筆 

「SNS時代の“病院の危機管理広報”」

4回目 メディアトレーニングで客観的に訓練

広報コンサルタント/日本リスクマネジャー&コンサルタント協会理事 石川慶子

危機管理広報は、考え方そのものは難しいものではありませんが、現実のクライシスに突き当たると思うように心も体も動いてはくれません。そこで、平時に取り組むとよいメディアトレーニングについて解説します。

 

記者会見の有効性

クライシス発生時の最初の大きな判断は、記者会見をするかしないか-。私の長年の経験からすると、病院は人々の期待が大きいため、何か問題が発生したら、迷うことなく記者会見を開くことを前提にすべての準備を進めることをお勧めします。マスコミだけでなくメールでの問い合わせが殺到すると日常業務にも支障をきたします。病院スタッフや患者の皆さんを守るためにも一度で済む記者会見はダメージコントロール策として有効だからです。

全く別の業界の事例ですが、2011年、なでしこジャパンの女子選手が食事会で居合わせた学生に「監督を批判した」とツイッターに書かれ、炎上したことがありました。通常であれば、この程度のことは記者会見を開くほどのことではありませんが、女子選手と佐々木則夫監督は記者会見を開きました。女子選手は自分の軽はずみな行動が誤解を招いたことをお詫びするとともに、「書かれた内容は事実ではない」と否定しました。監督も自らの指導不足と反省しつつ、「書かれた内容を信じていない」ときっぱり言い切りました。この対応は事態を収束させるだけでなく評価も高めたといえます。

しかしながら、記者会見の経験がなく、いきなり大勢の記者を目の前に説明するのは心理的な負担が大きいでしょう。そこでお勧めするのが、「メディアトレーニング」です。実際にカメラで撮影する模擬記者会見を実施することで自分たちを客観的に捉え、記者会見やインタビューに対してスムーズに対応できる能力を育成する訓練です。このトレーニングを通して、失言、誤解などを回避する手法を体で身に付けます。平時においてはイメージ向上の役目を果たし、緊急時においてはイメージ損失を最小限に押さえる役目を果たします。

 

誰に何を伝えるか

メディアトレーニングには、(1)記者の背後にいる患者さんやその家族といった利害関係者(ステークホルダー)に的確なメッセージを発信できるようにすること(2)記者からの辛辣な質問や誘導尋問に慣れ、どんな質問にも的確に答えられるような能力を身に付けること(3)記者から理解され、さらに信頼・好感をもたれること-という3つの目的があります。(図略)

会見に当たっては、「誰に何を伝えるか」といったキーメッセージを最初に明確にし、大切なメッセージは3回以上繰り返します。謝罪であれば、どんな質問がきても、「自分たちの至らない点は○○でした」と締めくくります。「自分たちは悪くない」「○○がこう言ったから自分はそうした」はNGワードと思ってください。謝罪をメッセージ方針としているのに被害者意識や責任転嫁の言葉を使ってしまうとメッセージ力は半減してしまうからです。

メッセージの組み立てとしては、リスクを広報的観点から3つに分類すると方針が作りやすいでしょう。患者を取り違えるといった医療ミスなど内部の管理体制に起因するものが「予防系リスク」、サイバーアタックや悪質クレーマーなど外からの攻撃は「半予防系リスク」、地震など予防ができないもので社会全体が影響を受けるものが「非予防系リスク」。*1

何か起きた際に、あってはならない不祥事で、予防系リスクに該当するなら、第一報のコメントは被害者への「謝罪」になります。半予防系リスクのような外からの攻撃については、敵に対して有利な情報を提供しないといった方針を立て、敵への怒りのコメントを表現することもあるでしょう。非予防系リスクの自然災害については、犠牲者や被災者へのいたわりの気持ちを表現するコメントがふさわしいといえます。

メディアトレーニングのシナリオや危機管理広報マニュアルも3つのケースをベースに3パターン用意しておくと覚えやすく使いやすいものになるでしょう。

記者ならではの質問への対応

記者は正義感が強いと言われていますが、彼らの言い分がいつも正しいとは限りません。二者択一の質問、結論の押し売り、仮定の質問、誘導尋問、敵対的な質問など、記者特有の質問手法があります。追加質問でどんどん矛盾を突いてくる記者もいます。

困った質問には即答せず、しばらく沈黙する、あるいは、後で回答ということで持ち帰ってもよいのです。いわゆるNGワードといわれている言葉、「法律は守っている(から問題ないでしょう)」はつい言ってしまいがちです。記者を敵に回しがちな言葉は避けて別の表現をする工夫をします。ただし、人によって癖や課題は異なりますので、模擬記者会見やインタビューをビデオに収録します。ビデオを見ながら、課題を明確にして、再度、模擬記者会見やインタビューを実施することで改善していきます。

カメラに慣れることで平時の取材も抵抗なく対応できるようになります。人からどう見えるか意識を高めることが、平時から個人のリスク感性を高め、クライシス発生時の判断力・行動力にもつながるのです。

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