メディアトレーニングのプロフェッショナル
外見リスクマネジメント提唱

logo

mail

お問合せ

03-5315-7534(有限会社シン)

03-6892-4106(RMCA)

ペンの絵 マスコミ発信活動

病院の危機管理広報③外見リスクをマネジメントする

CBニュース掲載 2015年3月執筆 

「SNS時代の“病院の危機管理広報”」

3回目 外見リスクをマネジメントする

広報コンサルタント/日本リスクマネジャー&コンサルタント協会理事 石川慶子

正確な言葉を使っても相手に思うように気持ちが伝わらないことがあります。印象という言葉があるように、人は言葉だけで相手を理解しようとはしていないからです。今回は非言語コミュニケーションの世界について考えてみましょう。

 

■伝わる力は3V

心理学の世界では、外見や声の調子の方が言葉よりも相手に対するメッセージ力があるとされています。よく引用されるのが、カリフォルニア大ロサンゼルス校心理学教授のアルバート・メラビアン氏がコミュニケーションに関する研究を行った結果です。伝わる力は、外見(Visual)が55%、声の調子(Vocal)が38%、言葉(Verbal)が7%で、「3V(Visual、Vocal、Verbal)の法則」と言われています。

外見とは、「姿勢」「態度」「視線」「表情」「ジェスチャー」「服装」の全てを含むと言えるでしょう=図=。背中を丸めて、目線が下であれば自信がないように見えます、顎を突き出せば傲慢に見えます。大柄のネクタイやレジメンタルタイ、ボタンダウンのシャツは公式感に欠けるため、場を軽んじているように見えてしまいます。上着のボタンを締めていなければだらしなく見えます。有名ブランドの高級時計などは、謝罪の場面では反発を買います。

女性の場合も同様です。お披露目会見であれば光り物を身に着けていても構いませんが、不祥事や事故などで犠牲者がいる場合には、揺れるイヤリングや光り物を避けた方がよいでしょう。

髪型は男女共に清潔感のある髪型を心掛けます。カメラのアップが予測できる場合には、「眼鏡の汚れを落としておく」「肩にふけが落ちていないようにする」といった細かい配慮が必要になります。

■好印象の服装とは

最近注目された記者会見を振り返ってみましょう。昨年7月のベネッセ個人情報流出事件での原田泳幸社長。会社としての対応は迅速であり、スポークスパーソンとしての振る舞いもほぼ模範的だったと言えます。特に、「警察が捜査中なので詳しいことは言えませんが、今言えることは…です」といった言い回しは完璧でした。ただ、1回目の会見の外見作りに漏れている点がありました。公式感に欠けるレジメンタルタイだったからです。しかし、2回目は細かい小紋に改善され、公式感が高まりました。

日本マクドナルドのサラ・カサノバ社長の会見でも同じことが言えます。昨年7月、中国での期限切れ鶏肉の使用について説明した会見時と今年2月の異物購入について説明した会見を比較してみましょう。昨年7月の会見時には、髪を下ろし、前髪が顔にかかっていたため、すっきりとした印象ではありませんでした。また、服装も黒のスーツとモスグリーンのインナーで公式感に欠ける服装でした。しかし、今年2月の会見時では、グレーのスーツに白いシャツで胸元はすっきり。髪も後ろにまとめ、きりりとした印象になり、女性リーダーとしての風格が出ていました。

このようにはっきりと分かる改善がなされた背景にはプロのアドバイザーがいたであろうと予測できます。しかし、アドバイスを受けたのはカサノバ社長だけだったのでしょう。隣のスポークスパーソンはスーツのボタンを締めずにお辞儀をしていましたので、気持ちが引き締まっていないように見えました。反省やお詫びの気持ちは着こなしでも表現すべきではないでしょうか。

ところで、病院の場合、白衣での記者会見を見かけます。現場の方が医者として会見をする場合にはよいと思いますが、経営者として会見する場合にはダークスーツを着た方がよいでしょう。特に、医療事故で死亡者がいる場合には、服装には気を付けなければなりません。「黒でいいのかどうか」は皆さんが迷う部分でしょう。私が長年一緒に仕事をしているパートナーのスタイリスト・高野いせこ氏はこう述べています。「黒のスーツが絶対駄目とは言いませんが、あまりにも死のイメージに直結してしまうため、遺族の悲しみや怒りを増幅させてしまうのではないでしょうか。女性は黒のスーツでも構いませんが、喪服は避けて、アクセサリーは外しましょう」。一番大切にしたい相手(ステークホルダー)の気持ちになって服装を選ぶ配慮が必要です。

 

■気持ちを外見で正しく表現する

組織における「広報」とは、第1回「医療事故やトラブル発生!~初動3原則~」で解説したようにPublic(人々)とのRelations(関係構築)によって組織存続を目指す活動です。具体的には、分かりやすい表現で「理解」を得ること、失言やミスリードを回避して「信頼」を得ること、清潔感や品格ある外見、服装や立ち居振る舞いで「好感」を得ることで社会と良好な関係をつくります。

ポジションペーパーの出し方やタイミングが完璧であっても、それを説明するスポークスパーソンの服装や振る舞いが中身のレベルに見合ったものでなければ、伝達は不完全になってしまいます。「このように見えたい」と自分がイメージする姿と「実際の見え方」にギャップがあれば、それが外見リスクとなります。広報では、「ありたい姿」「見えたい姿」を常にイメージして、そこに近づけるためのあらゆるコミュニケーション努力を行います。

昨今の注目を浴びる記者会見はマスコミが報道する前にYouTube等の動画共有ポータルサイトで配信されてしまいます。以前はマスコミがどのような報道をするかが注目されていたわけですが、今はダイレクトに一般顧客に伝わってしまう時代です。記者会見は歴史に残る公式な舞台です。自分たちの気持ちを正しく表現する外見の在り方にも気を配る必要があるでしょう。

記事をシェアする

関連記事一覧