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いじめ・自殺問題発生時における学校の対応と説明責任のあり方について

2013年11月執筆

私学マネジメント協会発行 FORWARD NO.23,23掲載元原稿

「いじめ・自殺問題発生時における学校の対応と説明責任のあり方について考える」(前半)

思春期にあたる中学・高校生のいじめやそれをきっかけとする自殺について学校はどのように対応したらよいのだろうか。臨床心理士として横浜市内の学校の緊急支援に携わっていらっしゃる武蔵野大学教授の藤森和美先生にお話を伺った。前半は、リスクマネジメントの最大のポイントである「リスクの芽」にどう気づくのかといった視点から、いじめを発見した際にどう対応したらよいのかを考える。後半は自殺という最悪の事態になってしまった際の対応と説明責任について考える。

 

インタビュア:石川慶子(広報コンサルタント)

子どもの行動や感情を奥行きを持って観察し、リスクの芽を発見する

 

最近のいじめは、SNSなどのネット化で見えにくくなっている

-藤森先生は、児童・生徒の多くにトラウマ(心的外傷)を生じかねないような事故・事件等が発生した場合に学校に駆けつける「こころのレスキュー隊=CRT(クライシス・レスポンス・チーム)」活動をされており、この分野では数多くの現場の経験をなさっていると思います。その中において、特に最近のいじめ問題における学校の対応における課題はどのようなところにあると感じていらっしゃいますか。

 

公立、私立を問わず共通して問題になってきているのは、ネット、SNSの中でいじめが行われているため、大人が気づきにくく、深刻化しているということです。以前は、目の前の相手に対してでしたので、夏休みに入れば、一旦人間関係が切れてリセットできたわけですが、ネットだとリセットができません。SNSという閉じられた空間なので、親も教員もわからず、関係の変化がつかめないまま2学期に入ってしまう。大人は追いつくのが精一杯という状況で、間に合わない場合には、自殺という最悪の結果になってしまいます。2学期の初めは自殺が多いのです。

 

-2学期の初めはネックなのですね。私の娘は、現在中学1年生ですが、そういえば、9月下旬に私はいじめ通報を学校に行いました。娘が、2学期がスタートしてから、ある子がいじられはじめ、全体に広がってきてまずい雰囲気だと訴えてきたのです。被害者のお子さんの保護者に電話したら、「あざができて気になっていたのだけど、子どもが大丈夫だから言わないで、と言うので学校に相談してない」とのことでした。私はすぐに学校に電話して担任と副校長に緊急対応を求めたところ、翌日に学校は事実確認し、夕方までに謝罪させました。非常に素早い対応でした。

 

子どもの「言わないで」に、ひるまない

 

いじめは発見したらすぐに行動すべきですが、実際にはひるんでしまうことが多いのです。いじめが深刻化したケースで、保護者や先生が「あそこでひるまなければ」といった後悔の言葉は非常に多く聞きます。大人は、「言わないで」と子どもから言われれば、一瞬ひるんでしまいます。「大丈夫だから」と言われると、乗り越えていけるだろう、成長を信じたい、しばらくは見守ろう、という気持が湧いてきます。しかし、見守りはだめです。もう起きているのですから、やるべきことは見守りではなく、いじめを止めさせることです。

 

-おっしゃる通り、ひるんでしまう気持ちはよくわかります。あるいは、丁寧に、慎重にやろうとするのかもしれません。子どもは「言わないで」と言いますしね。

 

子どもは必ず「大丈夫」「言わないで」「自分で何とかするから」と言うのです。なぜ、そう言ってしまうかというと、自分がいじめの被害者であることを認めたくない、認めるのが辛い、認めるとみじめな気持になるからです。このような場合、子どもに対しては、「声を出していいんだよ」「これ以上ひどくなるようにはしないから」と話してあげることです。子どもは自分から訴えることは難しいことだと、私たち大人は理解しておく必要があります。

 

-先生方はどうしたらよいでしょうか。子育ての経験のある先生ばかりではなく、大学卒業したばかりの先生もいらっしゃいますから、気づく、判断して行動する、といったことができないと思います。

 

いじめかどうかを判断するのは、先生一人では難しいと思います。必ず複数の目で見て対応する必要があります。理想としては、学校に対応チームを作っておいて、そこに相談できるような仕組みがあるといいです。一人で判断してアクションを起こすのではなく、まずは相談する。相談しない、言わないことはいけないことだ、というルールを作るのです。徹底させるためには、先生方には、黙っていた場合にはペナルティーを課す、と厳しくする工夫も必要ではないでしょうか。皆が声を上げる努力をするのです。

 

先生ならではの視点、授業態度や成績から観察してみる

 

-いじめ問題に取り組む場合、表面的なことを見ていてもわからないだろうと思います。いじめの背景にあるものが何かを突き止める必要があると思います。家庭環境が絡むことも多いと思いますが、教師という立場でどこまでできるのでしょうか。

 

いじめという側面だけで捉えてはいけません。成育歴の中で何が合ったか、家族の中で何が展開されているのか、を考えていかないと本質的な部分まで手が届きません。ただ、子どもは、先生には知られたくない、といった感情もあります。学校のカウンセラーにも知られたくない、といった場合もありますから、そのような場合には、学校外のカウンセラーにつないでいかなければなりません。よくあるのが、「あの子は明るくて先生の言うこともよく聞いて協力的だ。そんなことがあったなんて信じられない」といった言葉です。特に手が掛からない生徒の場合には、本当にそうなのか、といった視点を持つことも時には必要です。手がかからないのをよしとするのではなく、子どもが発達段階に応じた感情を持っているかどうかを観察してほしいと思います。

 

ある家庭内暴力で殺人事件があった時のことです。第一発見者の生徒さんについて、事件の後も変化がなく普通だと先生はおっしゃるのですが、この場合普通であることがおかしいのです。その子は家庭内暴力を受けていたのです。通常は、泣いたり、不安になったりするのに、その子は家庭が辛い場所だったため、学校では良い子にして先生に褒めてもらいたかったのです。本当の気持ち、辛さを押し殺して手のかからない子を演じていたといえます。対応しやすい子は見落とされがち。手のかからない生徒さんについては、本当にそうなのか俯瞰的に見てほしいと思います。

 

-私が中学生の頃には家庭訪問がありましたが、今はありません。私学の場合も家庭訪問はしないだろうと思いますから、家庭環境を把握しにくいのではないでしょうか。子どもをよく観察することが気づくきっかけになりそうですが、具体的にはどのようなことに注意して見たらよいのでしょうか。

 

外から見てわかることもあります。清潔ではない服装出来ていればネグレクトが想像できますし、言動や周囲との人間関係から見えるものがあるでしょう。また、先生ならではの視点から見えることはあると思います。例えば、学習の進み具合の中で成績が低迷している、集中力が欠けている、となれば何か心配事があるかもしれません。あるいは、授業中よく寝ているとなれば、不規則な生活を想像できます。保健室での状況も重要な情報源になるでしょう。成績がよくて手がかからない子、協力的な子については、見過ごされがちですが、感情面を見るとよいでしょう。発育段階に応じた感情が表現できているかどうかといった奥行きのある観察をしていただきたいと思います。

 

「いじめ・自殺問題発生時における学校の対応と説明責任のあり方について考える」(後半)

 

思春期にあたる中学・高校生のいじめやそれをきっかけとする自殺について学校はどのように対応したらよいのだろうか。臨床心理士として横浜市内の学校の緊急支援に携わっていらっしゃる武蔵野大学教授の藤森和美先生にお話を伺った。前回は、リスクマネジメントの最大のポイントである「リスクの芽」にどう気づくのかといった視点から、いじめを発見した際にどう対応したらよいのかを考えた。今回は、自殺という最悪の事態になってしまった際の対応と説明責任について考える。

外部専門家から客観的視点のアドバイスを受けながら組織的に対応すべき

 

組織的な対応体制を構築し、ケアプランを立てる

 

(石川)最悪の事態、つまりいじめがきっかけとなって生徒が自殺をしてしまった場合のことをお伺いしたいと思います。生徒だけでなく教員も含めて衝撃が走り、頭が真っ白になってしまうと思います。心理的観点から、最初に何をすべきでしょうか。

 

(藤森先生)私達に依頼がある場合には、子ども達のケアのため、といったことが多いのですが、最初にすべきことは「組織的なケアプラン」を立てることです。そして、2番目が教職員への心理教育、3番目が保護者への心理教育、最後に子どもたちへの個別のケアとなります。つまり、子ども達のケアをする前に3つのことをしなければならないということです。また、記録を取ることは大変重要です。必ず、言った、言わない、といったことになりますし、カーッとなってしまうと頭に入っていないこともあります。若い親は知識がありますから、訴訟も視野に入れていますし、いざとなったら裁判で決着をつけたいと考えているのです。そのため、保護者はICレコーダーを使って録音していると思った方がよいでしょう。一方、学校側は訴訟文化に慣れていないため、記録する習慣があまりないのです。

 

(石川)それは同感です。私は緊急マスコミ対応で支援に入ることが多いのですが、事実関係を把握する調査に入る前に、いつ来るかわからないマスコミへの対応方針を立てます。関係者からのヒヤリングや取材対応、記者会見は全て記録を取ることを伝え、ICレコーダーやビデオカメラを準備してください、と申し上げるのですが、学校にないため、買いに行くのが最初のアクションになることもあります。さて、最初に立てる「組織的ケアプラン」についてもう少し詳しく教えていただけますか。

 

(藤森先生)最初に校長にヒヤリングを行い、学校がどこまで情報を把握しているか確認します。ケアプランは2,3時間毎の計画を立てます。先生方は何が不安かを確認します。遺族対応へのアドバイス、保護者対応、生徒への対応をどう行うのか。特に自殺の場合には、遺族の意向が大きく影響します。そして、遺書があったかどうかは大きい。その遺書を遺族がどのように受け止め、何を学校に望むのか、学校は遺族の意向をどう受け止めるのか。生徒には伝えるのか、伝えないのか、伝えるとしたらどのようにするのか。遺族から情報を出してほしいと依頼されれば、情報収集して出さなければいけません。このような中、学校の先生も当事者になってしまうので、普段仕切っているような形では動けないのです。また、マスコミ対応に慣れていない学校では、校長が終日ずっと電話で取材対応をしてしまったことがあります。これでは、他の対応がおろそかになってしまいます。

 

(石川)マスコミ対応で支援に入る場合には、個別対応と記者会見の選択肢を提示します。個別対応は、対応に時間がかかるわりには、結果として報道が各社ばらばらになるため影響が長引くことを説明すると、皆さん記者会見を選びます。記者会見は、2時間程度で済んでしまいますから、体力的にも楽です。教員や生徒、保護者への取材攻勢を防ぐこともできます。マスコミ対応は専門家が一人入れば乗り切れますが、メンタル面は人数が必要になるだろうと思います。実際に支援で入る場合の人数ですが、中高一貫校で各学年100人として600人の学校の場合では、何名のサポート体制になりますか。

 

(藤森先生)全ての学年に波及すると考えた場合、各学年に一人ずつで6名、保健室への支援、教職員への支援、校長支援となると10名位は必要になるでしょう。もっとも、実際にはそれだけのカウンセラーを集めるのは大変難しいですが。

 

(石川)一昔前と異なり、学校に対して説明責任を求める声は高まってきていますが、学校は誰にどこまで説明すべきだと考えますか。

 

(藤森先生)学校の管理内で起きたのか、管理外で起きたのかによって期待される説明責任は異なると思います。管理外であれば、攻撃の的になることはあまりないでしょう。いずれの場合であれ、学校はきちんと対応したのだと伝えることは必要でしょう。学校の管理内で起きた場合には、遺族や被害者の保護者は、必ず学校に対する不満を感じ、攻撃的になります。自分達の至らなかった部分を責めると辛くなるので学校を責めてしまうのです。親族や知人など周囲の第三者が訴訟したらいい、といったこともアドバイスしてきます。また、最初は学校が悪いと恨んでいても、その後、ネットで子どもが残した言葉の中に親への不満を見つけると学校への責任追及の気持ちが変化することはあります。学校側は時間がかかること、ずれが生じること、遺族や被害者感情は変化するものだと覚悟して接した方がよいでしょう。寄り添うことと謝罪を違うのですが、混同も見受けられます。

 

(石川)管理外事件なら、謝罪はしないが寄り添うことは必要ですし、管理内であれば、寄り添う前に謝罪だと思いますが、謝罪の仕方がわからない、どう表現したらいいかわからないといった相談がよくあります。いろいろな保護者がいるのでさまざまなことを想定すると対応方針が決められないのではないかと思います。当事者同士での話し合いが無理なら、裁判で決着をつければよいと思いますが、訴訟に慣れていないのでしょうか。

 

(藤森先生)確かに保護者対応には労力がかかります。ずっと文句を言い続ける保護者は私学でも公立でもいるでしょう。ただ、学校を責め続けても仕方ない、自分達は何ができるか、と言いだす別の保護者は出てきます。そこで収まってくるケースが多いですね。ただ、最近の傾向として、保護者は以前よりも顧客感覚を強く持つようになっていると感じます。学校を信頼していないのに期待する、あるいは信頼していないから要求する、というのでしょうか。保護者の方に精神障害が入っていることもあります。先生は授業があるのに、毎日3時間も4時間も保護者対応をした結果、病んでしまいました。この時には、校長に訴えようアドバイスしたのですが、いや教育力で乗り切る、とおっしゃるのです。学校は保護者を訴える勇気がないのでしょう。校長は教員を守る経営者としての視点も持つ必要があります。学校も企業が導入しているようなEAP(Employee Assistance Program:従業員をメンタル面から支援する制度)を導入する必要があるのではないでしょうか。

 

<取材を終えて>

藤森先生へのインタビューで共感したことは、「組織的対応」を強調していた点だ。いじめの問題が発生した際には担任だけで抱えるのではなく、その情報を皆でリスクとして共有するチームとしての力をつけること、万が一自殺といった結果になった場合にも、組織としての対応プランを立てること。いずれも校長のリーダーシップが重要だが、その校長を支えるのが外部専門家ではないだろうか。私学の場合には、公立のような事務的支援を行ってくれる教育委員会もない。自力で乗り越えるしかない。これからは第三者視点によるチェックを社会から要請されることが多くなっていくだろう。そのためには、私学が平時から、情報を豊富に持つ外部専門家を活用することが生き残る道になるかもしれない。

 

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