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クライシスコミュニケーション事例①工場火災

「月刊ISOマネジメント」(日刊工業新聞社)RMCAリレー連載 2009年4月~2011年4月
広報コンサルタント 石川慶子

クライシスコミュニケーション第2回目

「事例①工場火災」

前回、クライシス・コミュニケーションの基本は、「タイミング」「手法」「表現」であると述べました。今回から、その基本に沿ってケース別にポイントを整理します。

工場火災では、2時間以内に最初の情報提供をめざす

―「いったい何時になったら会見をするんだ!」記者達は一斉に本社へ詰め掛け苛立ちの声を上げた。―
2003年9月8日に発生したブリヂストンの栃木工場火災当日の一幕です。この時は、正午の火災が発生し、直後に記者が一斉に取材に動き出しましたが、謝罪文が配布されたのは17時、記者会見が行われたのが21時でした。ここで疑問を持つかもしれません。「当日中に記者会見をやっても遅いのか」と。大規模な事故や火災の場合には、消防と警察が現場に急行しますが、記者もほとんど同時に現場に到着します。事件記者は常に警察に出入りして情報収集しているからです。また、このように工場からモクモクを黒煙が上がっていると絵になりやすいため、すぐに情報を出さないと憶測情報ばかりが報道されてしまうのです。したがって、大規模な事故や火災では最初の情報提供を2時間以内という目安を立てるとよいでしょう。短すぎると思うかもしれませんが、2時間という目標を立てることでかえってスタッフは動きやすくなります。提供する情報は、その時点でわかっていることだけを発表すればよいのです。最もいけないのは、何時にどのような形で情報が出てくるのかが全くわからない状況にしてしまうことであり、これが記者の苛立ちの原因となってしまうのです。「いつどこで何が起こったのか」「けが人はいるのか」「2次爆発の危険性はあるのか」「対策(調査)本部を立ち上げた」といった簡単な状況説明でよいのです。記者会見できる状態でなければ、記者レクという質問を受けないで伝えるだけの対応でも構わないので、とにかく情報を迅速に出す体制にあることを見せることが必要です。
ブリヂストンのような大企業がなぜできなかったのでしょうか。社長と広報担当部課長が海外出張中であったため判断できる責任者が不在だったといわれていますが、これについては合点がいきません。メディアトレーニングプログラムの設計が甘かったか、していなかったかのどちらかでしょう。そもそも工場火災であれば、工場長が最初の対応をできるような体制にしておくべきです。私がこれまでに手がけた工場火災を想定したメディアトレーニングでは、工場長中心にしたものでした。もちろん事前に記者と打ち合わせてシミュレーション別に誰ならよいかを検討します。記者からすれば、最初の状況説明は社長ではなくてもよいのです。現場責任者が記者レクなり記者会見を行うという対応で十分記事を書くことができるからです。メディアトレーニングは、ケース別に細かくシミュレーションし、誰がどのタイミングで対応するかを検討しながら進めるのです。
もう一点、工場火災で注意すべき点があります。記者は工場と本社の両方に殺到します。さて、この場合にはどちらで記者会見をすべきでしょうか。基本的には「工場でするべき」で、絶対にやってはいけないことは、「両方でやること」です。2ヶ所から情報発信されると本社と工場で微妙に食い違ってしまい、情報が錯綜してしまう可能性があるからです。「工場」、あるいは「工場近くの施設」など現場から遠くない場所を選びます。現場対応しながら賢明に情報発信する姿は、記者や一般の人々に好印象を与える筈です。

記者会見では、地域住民を意識した責任あるメッセージを

企業の場合、平時に接触してくる記者は経済部や産業部の記者になります。従って、質問事項は、新サービスや新製品、新システム、売上といった経済活動に関するものになりますが、事故や火災発生時には、社会部の記者にも対応しなければなりません。特に工場火災では地元紙の記者が詰め掛け、質問の意図も社会面の読者、地域住民の感情を中心としたものになります。工場で働く従業員も地域住民に含まれますから、企業としては、従業員とその家族、それを取り巻く地域の人々が記者の背後にいることを強くイメージして語る必要があります。
―記者「原因がわかるまで全て操業停止ですか」
―社長「いえ、問題のないラインは停止しません。業績への影響を最小限にいたします」
この社長は誰を意識して言葉を発しているでしょうか。取引先、株主、一般消費者ではないでしょうか。このような回答を聞いた社会部記者はおそらく頭に血が上ることでしょう。地域住民の不安が払拭できないうちに稼動とは何事だ、と。では、どのように回答すればよいか。例えば、「全てのラインを操業停止にするかどうかは、調査状況を見ながら判断します。また、地域住民の方々に対してまずよくご説明した上で、操業ラインについて決定していきます」としてはどうでしょうか。微妙な問題は即答せず、一番配慮すべきステークホルダー―工場の場合には地域住民―と相談しながら進めるという姿勢を見せるのです。
次のやりとりは、ミスリードを起こしてしまった時のある石油会社の記者会見一幕です。
―記者「今回の工場火災について責任について考えるというのは、ご自身の進退も含むのですか」
―社長「そうだ」
この場にいた多くの記者達は、辞任と受け取り、翌日の紙面は「辞任」の見出しで埋め尽くされました。結局、再度「辞任否定」の会見をやる羽目になりました。信じられないかもしれませんが、記者は明確な否定がない場合には、「Yes」と受け取るのです。では、どう回答したらよいのでしょうか。「いいえ、辞任はしません」は、正直かもしれませんが、あまりにも無神経すぎて反発を招く恐れがあります。「私が考えるトップの責任とは、原因を究明し、再発防止を確立することです。トップとして責任を果たすことをお約束します」。こんな力強い言葉を聞きたいと思いませんか。責任追及の質問が来たら、「責任を取る」発想ではなく、「責任を果たす」内容で切り返すのです。日本のマスコミはトップの首を取ることを最大の目標にしているところがありますが、東京都消費者月間でのアンケート(2005年)では、不祥事起こした企業に対してトップの交代を求める人は2%しかいませんでした。本当に責任を果たすとはどうゆうことかを自らの信念に基づき語り、再発防止の決意表明することの方がはるかに責任あるメッセージとして人々に届くのです。

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