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信頼を獲得できる説明任のあり方とは

―提言―     広報コンサルタント 石川慶子

「広報」は単語としては「広く知らせる」という意味になりますが,組織における広報の機能
は異なります。戦後GHQとともに日本に入つてきた考え方で,パブリック・リレーションズ(Public Relations略してPR)を翻訳して「広報」となりました。組織における広報の機能は,
人々に対して説明することで理解と信頼を獲得する活動となります。エピソードをご紹介しましょう。
 
今から100年ほど前の米国。事故を起こした鉄道会社は,それまでの慣例に従つて事故を隠そ
うとしました。それを止めさせて事故現場に記者たちを連れて行き,その場で説明させたのが
アイビー・リーという広報コンサルタントでした。この行為によつて鉄道会社は信頼を獲得し,評判はかえって高まりました。この話の教訓はどこにあると思いますか?正直に話したことでしょうか。いや「慣例に従わなかった」ことにあるのです。このことは,私自身の戒めとしています。たいていは,「今までそうだったのだから同じようにしておけばいいJといった発想になりがちで,「以前はこうだったが,今回はこれでいいのだろうか」と疑つてみることは案外できないものです。しかし,このような疑いの気持ちは改善につながるとても重要な感性であり,これを繰り返していくことで組織は成長していきます。学校経営においてもこのような発想が必要ではないでしょうか。
 
1995年から私は広報を専門領域にした仕事をしていますが,2000年になると人々の意識が変化したことを直感的に感じました。内部告発によつて事件・事故が報道されるようになってきたのです。これは公務員の守秘義務や企業機密,組織の論理よりも公益性が優先され,国民は知るべきだと考える人たちが増えてきたことを意味します。この世論を背景にして2006年から公益通報者保護法も施行されました。法律よりも先に人々の意識の高まりに注目する必要があるのです。記者会見で「法律は守っている」がNGワードになってしまうのはこのことゆえです。
人々の価値観や倫理観は時代とともに変化していきます。その時代,その社会が求める説明責任を敏感に感じ取る感性が教員にも必要ではないでしょうか。
 
私は2005年から四千人以上の中堅教職員,校長・副校長等を対象としたリスクマネジメント研修を行つてきました。この研修のテーマは学校に不利な情報の取り扱いでした。知られたくない悪い情報をどのように組織内外の関係者に説明していくか,講義や演習を行つてきました。よく受けた質問は,「謝罪したら裁半Jで不利になりませんか。」,「模範的なコメントを教えてください。」,「原因は不明でも謝罪は必要ですか。」,「よくテレビで報道されている形で頭を下げればいいのですよね。」などでした。これらの質問が物語つていることは何でしょうか。「何のために記者会見するのか」,「誰に何を伝えるべきなのか」といった目的やメッセージ意識の不足です。どのような態度で, どのような言葉を発信することが信頼の失墜を防ぐのか,あるいは逆に信頼を高めることになるのか,先生方にはもつと真剣に研究をしてほしいと思います。