執筆活動
企業経営を強化する 実践!リスクマネジメント講座

「月刊ISOマネジメント」(日刊工業新聞社)RMCAリレー連載 2009年4月~2011年4月
広報コンサルタント 石川慶子
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第6回

インターネットの普及により、急拡大したのが風評リスクです。噂話が短時間で広がるリスクは大きい。ネット上の風評リスクにもクライシス・コミュニケーションスキルが通用するのかどうかを今回は考えてみましょう。

個人の情報発信を止めることはできない

2009年1月に注目すべきネット書き込み事件の判決が出ました。飲食チェーン店の誹謗中傷を書き込んだ会社員に対しての有罪判決です。一審では、「ネット上の書き込みには反論できる。個人がネットで発信した情報は信頼性が低いとされている」とされていたものが、今回の二審では「全てに反論することは不可能。反論によってエスカレートすることもある。ネット上の情報には幾分かの真実が含まれると考えられる。名誉毀損の危険性は従来のマスメディアと同じ」とされました。
河野太郎衆議院議員も最近パネラーとして登壇したブロガーイベント(AMN主催「インターネットが選挙を変える?」2009年4月24日)で、「事実無根のことをネットで書かれたことがある。こんな根も葉もないことを信じる人はいないだろうとそのままにしていたら、事務所に直接クレームを言いに来た人がいたので、そうゆう時代になったのかと正直驚いた。」とコメントしています。法的にも実感レベルでもネットの書き込みを放置すると危険であることを証明しています。
ネットの書き込み管理サービスを提供している株式会社ガーラバズの佐野真啓氏は、「ブログが登場する前は、掲示板でのネガティブな単語は短い言葉として書き込まれる程度で、それに反応がなければそのままで終わっていた。ブログが普及するようになってからは、ネガティブ情報がストーリー性を持ち、文章として語られるようになってきた」と述べています。断片的だった情報が系統的に書かれるようになることでより説得力のある内容になっているといえるでしょう。個人がブログというツールで簡単に社会全体に情報発信できるようになれば、ネット署名活動、集団訴訟、不買運動もすさまじい速さで実現可能になってくるかもしれません。しかしながら、個人の書き込みを止めることはできないのです。

デマメールから始まった銀行の取り付け騒ぎ

1通のデマメールから銀行の取り付け騒ぎにまで発展した事例を紹介します。
2003年12月25日午前1時半頃、ある女性が26人の知人にメールを送りました。「友人の情報によると26日に佐賀銀行がつぶれる。預けている人は明日中に全額おろすことを薦める。信じるか信じないかは自由」。受信者は知人に転送したり、話したりしたことでうわさは加速度的に広まり、ATMは長蛇の列となりました。クリスマス、給料日、年末といった条件が揃ったことも混雑に輪をかけることに。この日、引き出された総額は前日の2倍の180億円、急増した携帯電話の使用でNTTは夕方2時間通話制限を行う事態となりました。
これに対し、銀行は、ATM用現金の緊急輸送、ATM利用時間の延長、チラシの配布、デマメール発信者を指名不詳のまま信用毀損容疑で刑事告訴、緊急記者会見といった対応を25日当日中に行いました。一連の素早い対応が功を奏し、パニックに陥ることなく事態は収束していきましたが、年末までの1週間で450~500億円の預金流出があり、前年比-4.2%となってしまいました。
佐賀銀行は当日中にあらゆる対策を打ち、記者会見も行っており、素早い対応であったといえます。ただ、午前中から異常事態は発見できたのではないか、昼頃には緊急記者会見ができたのではないか、流出額をもっと抑えることができたのではないか、といった改善に向けての検討は必要でしょう。

流言を止めるには曖昧な状態をなくすこと

マスメディアが報道しない数多くの情報がネット上には存在しますが、情報量が多くなってくると、どの情報が正しいのか判断できなくなります。たとえ間違った情報であっても正しい情報よりも間違った情報の量が多ければそちらを信じたくなってしまいます。デマであっても数万回のコピペを繰り返すと情報がメディア化し、リアリティを形成し、真実だと思われてしまうのです。「流言の量は問題の重要性と状況の曖昧さの積に比例する。 流言=重要さ×曖昧さ」(オルポート&ポストマン説)というデマの心理学に関する研究結果もあります。佐賀銀行取りつけ騒ぎは、「自分のお金」という重要な問題と「倒産するかもしれない」といった曖昧な情報が重なって取り付け騒ぎになった典型的な例といえます。 
この種の問題への対応には、曖昧な状況を止めること、つまり、その問題について組織として正確な公式情報を出すといったクライシス・コミュニケーションの基本手法を使うべきです。

平時から継続的によい情報が出回るようにする

ネット上の風評で一番相談として多いのが、「2ちゃんねるにうちの会社の悪口が書かれている。削除できないか」「うちの会社名を入れて検索するとうちの会社の悪口が書かれた2ちゃんねるのページが1ページ目に表示される。何とかページランクを下げられないか」といった誹謗中傷に関することです。基本的にネットに掲載された評判情報は消すことができません。個人のプライバシーに関連することであればプロバイダーによっては削除依頼に応じるところもありますが、企業の評判情報はまず削除できません。では打つ手がないのか。2ちゃんねるを訴えればいいのか。いや、もっと有効な対応策があります。
なぜ、ネット上で自分の会社の悪口が氾濫しているのか。よい情報が流れていないから目立つわけです。よい情報が悪い情報の数倍あれば、悪い情報は目立たなくなります。2ちゃんねるで書かれた情報が検索結果の上位に表示されるということは、その会社に関する新聞記事や会社発信の情報が皆無か少なすぎるのです。
具体的な広報の施策としては、プレスリリースのネットワーク配信や自社サイトへの掲載、取材やインタビューの設定による記事としての露出といったことが上げられます。一番即効力があるのは大手メディアに記事になることです。朝日新聞で紹介された記事はネットでも掲載されます。新聞は発信源としての信用力が高いため、確実に2ちゃんねるよりもページランクが上になります。プレスリリースのネットワーク配信は、配信会社が契約しているサイトにプレスリリースが自動的に掲載される仕組みです。日常的に公式情報の発信を行うといった地道な広報活動が、悪評判を封じる最も有効な施策なのです。

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